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カテゴリ:映画 日本の監督 タ行・ナ行・ハ行 鄭
筒井武文「ホテルニュームーン」元町映画館 日本人の監督がイランで撮った映画だそうです。よくわかりませんがイラン人の女優さんや男優さんの演技とイランの生活や住居、学校の教室のシーンを興味深く見入りました。
カット一つ一つの映像は、映像として悪くないのですが、物語が成立するために、本来描かれなければならないはずの、「イランという社会」、「日本とイラン」といった背景について、一切、触れない作り方に、とても違和感を持ちました。日本・イラン合作とあるのですが、映画の底にあるのが、「日本」からの気持ちの悪い「上から目線」なのではないかと疑いを抱かせる作品でした。 話は変わるのですが、映画を見ながら黒川創という小説家に「明るい夜」(文春文庫)という作品があったことを思い出しました。もう十数年前の作品ですが、京都の町で暮らす二十代の若者の話で、主人公がバイト先で出会う「イラン人」が描かれていました。 作品全体の中では、エピソード的登場人物なのですが、その人物が日本に来た経緯や、考え方などが丁寧に書かれていて、作品の中に「人間」として存在している様子がとても印象深かったことが浮かんできました。 この映画でも、主人公であるハイティーンの少女モナの母ヌシンが日本に来て働くという、かなり重要なプロットがありますが、「事故」でなくなった男性との間に、のちのモナを身ごもった体で、なぜ、日本に渡ったのかが何も描かれず、善意の日本人と出会ったことだけが、大げさに描かれています。 映画はモナと母ヌシンの間にある「出生の秘密」が、観客をサスペンドして展開しているにもかかわらず、そうした背景が描かれないまま、とどのつまりには「再生」と謳っているのは不思議です。まあ、少なくともぼくには、ただの「なし崩し」にしか見えませんでした。 映画の出来不出来でいえば、それで終わりかもしれませんが、「日本映画」「イラン映画」の枠を超えた新たな名作などとあおられると、東洋の東の果ての国の、無反省な「オリエンタリズム」のニュアンスまで感じ取られて、むしろ、「不気味」でさえありました。 なんだか、けなしまくっていますが、それぞれの社会で生きている人間の、お互いの、わかりにくさを棚上げにして、チラシにあるような「母と娘の愛」という紋切り型でまとめて作品化するのは、映画に限らずこの国の「文化的表象現象」に共通しているのではないのかといういらだちを掻き立てる映画でした。 何となく元気が出ないまま「来週また来るわね」とあいさつして、「待ってますよ!」と返事をいただいて映画館を後にしましたが、コロナ騒ぎがまたまた燃え上がってしまいました。 さいわい、元町映画館は上映を続けるようです。マア、あんまり人とは合わないように工夫して出かけようと思っています。映画に当たりはずれがあるのは仕方がありませんが、映画館が閉まってしまうのは、もうどうしようもないわけで、「ミニ・シアターがんばれ!」いや、「アートハウス、ファイト!」かな、と心からエールをおくりたいと思います。 監督 筒井武文 脚本 ナグメ・サミニ 川崎純 撮影 柳島克己 美術 サナ・ノルズベイギ 編集 ソーラブ・ホスラビ 音楽 ハメッド・サベット キャスト ラレ・マルズバン(モナ) マーナズ・アフシャル(ヌシン:モナの母) アリ・シャドマン(サハンド:モナの恋人) 永瀬正敏(田中タケシ) 小林綾子(田中エツコ:タケシの妻) ナシム・アダビ マルヤム・ブーバニ 2019年・93分・日本・イラン合作 2021・04・16-no38元町映画館no78 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.10.29 23:07:15
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