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カテゴリ:映画 フランスの監督
フロリアン・ゼレール「ファーザー」シネ・リーブル神戸 久しぶりのシネ・リーブル神戸でした。
2021年の4月25日に、5月11日までの予定で発令されていた兵庫県に対する緊急事態宣言が、先の見通しは立たないまま延期され、閉館している映画館はどうなることかと思っていましたが、なんと、シネ・リーブルをはじめOS系、松竹系、ああ、それからアート・ビレッジも再開しました。ほんと、よかったのですが、このタイミングも、微妙といえば微妙ですね。 マア、いろいろ気にかかることはありますが、早速やってきたシネ・リーブル、復活の最初の作品が「ファーザー」でした。今年、2021年のアカデミー賞でアンソニー・ホプキンスが主演男優賞をとった映画です。 アンソニー・ホプキンスといえば、トマス・ハリスの小説「羊たちの沈黙」(新潮文庫)の連作の登場人物、レクター博士の印象が焼き付いている名優ですが、目が怖いという印象ですね。 で、今日は、その「まなざし」を、見に来たわけです。先日見た「ノマドランド」のフランシス・マクドーマンドは、まあ、言ってしまえば「強さ」の「まなざし」を演じていたと思いましたが、アンソニー・ホプキンスはどんなふうに演じて、主演男優賞をかっさらったのでしょう、というわけです。 映画が始まって、最初にギョッとしたのは、映画の作り方、観客を引き込んでいく演出というのでしょうか、スクリーンに映し出されたのは 空間と時間のミステリアスな「ずらし」 でした。 アンソニー・ホプキンス演じる老人アンソニーの 「意識が見ている世界」と「現実の世界」との「ずれ」 の中に、観客として映像を見ている、ぼくならぼくを実に巧妙に引き込んでいく手法は、実に見事で、異様にリアルな 現実喪失感 を映像を見ている人間の意識に作りだしていくカットの組み合わせの工夫はただ事ではありませんでした。 しかし、ぼくは、正直、少々やり過ぎじゃないかという印象を持ちました。ぼく自身は引き込まれていく自分にあらがって、もう少し、この老人を離れて見ていたいという気持ちでした。 どうでしょう、こう思った、この気分さえ、作られた意識の反応かもしれないところが、この映画のすごさかもしれないわけで、だから、ココが評価されるのは当然でしょうね。 で、ちょっと引いた感じで見ていて興味ぶかく感じたのは、アンソニーが音楽を聴くことでした。音楽は彼の中で生きているということが、どういうことを意味しているのかは分からなかったのですが、とても気になりました。ただ、残念だったのはラジオのような小さな装置で聞いている音楽は、歌曲だったと思うのですが、その曲名と歌詞の内容が分からなかったことです。 もう一つ気にかかったのが、彼が部屋の窓から外を見ているシーンですね。向かいに見える公園や、下に見える通りをじっと見ているのですが、何を見ているか、どういう「意識」で外の世界は見えているのかが、妙に引っ掛かりました。 このチラシに写っていますが、いかがでしょう。この時アンソニーは何を感じながら何を見ていたのでしょう。人格の崩壊をサスペンスフルに畳みかけてくる映画の時間の中で、彼の、この表情に、もっとゆっくり見入っていたいというのが、ぼくの率直な感想でした。 やがて、映画は、老優アンソニー・ホプキンスの 「演技」の真骨頂! ともいうべき哀切きわまりないラストシーンを映し出します。 しかし、そのあとに本当のクライマックスがやってきたのでした。ぼく自身にとっても他人事とは思えないそのシーンをゆっくり撮り続けるだろうと思っていたカメラが、窓から外へ向かい、窓辺に佇むアンソニーの日ごろの視線をたどるように、通りを映し出し、最後に、繁茂した緑の葉を風にそよがせている木立を映したところでカメラは停止ししました。スクリーンには緑の木立が風に揺れ続け、やがて、音もなく暗転し、映画は終わりました。 すばらしいラストシーンでした。風に揺れる緑の木立が、こんなにも懐かしく、美しいことに気付かないまま、67歳を迎えようとしている老人がボンヤリ映画館の椅子に座っていることの哀しさが一気に押し寄せてきました。 教えてくれたのは、窓辺に佇む老優アンソニー・ホプキンスの、眩しげで、やさしいまなざしでした。 監督 フロリアン・ゼレール 製作 デビッド・パーフィット ジャン=ルイ・リビ サイモン・フレンド 製作総指揮 オリー・マッデン ダニエル・バトセック ティム・ハスラム ヒューゴ・グランバー 原作 フロリアン・ゼレール 脚本 クリストファー・ハンプトン フロリアン・ゼレール 撮影 ベン・スミサード 美術 ピーター・フランシス 衣装 アナ・メアリー・スコット・ロビンズ 編集 ヨルゴス・ランプリノス 音楽 ルドビコ・エイナウディ アンソニー・ホプキンス(アンソニー) オリビア・コールマン(アン) マーク・ゲイティス(男) イモージェン・プーツ(ローラ) ルーファス・シーウェル(ポール) オリビア・ウィリアムズ(女) 2020年・97分・G・イギリス・フランス合作 原題「The Father」 2021・05・14‐no46シネ・リーブル神戸no93 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.06.28 11:56:27
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