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ウィリアム・ニコルソン「幸せの答え合わせ」シネ・リーブル神戸 予告編で、妙に生真面目な夫が、気が強そうで才気煥発という妻に、30年ほども連れ添った妻との暮らしから「降りる」宣言をするシーンを見て、がぜん興味を惹かれました。
映画は「幸せの答え合わせ」という、まあ、なんとなく不吉な予感のする題名でした。それにしても「Hope Gap」という原題が上記の邦題に変わるセンスは???という気がします。ちなみに「Hope Gap」は地名で、その風景が映画の世界を象徴的に表現していると素直に理解できる、急峻な崖が美しいイギリスの海岸でした。 このところ、神戸の映画館は人気番組によってはかなり込み合うこともあるようですが、ほぼ閑散としています。シネ・リーブル神戸も緊急事態とかの間実施していた「市松模様」の指定席をやめていますが、この映画も込み合って不安になりそうな気配は全くなくて、100人弱のホールの座席に座ったのは4人でした。 夫のエドワード(ビル・ナイ)が仕事から帰っ繰ると、妻のグレース(アネット・ベニング)が食卓でパソコンを触っています。自分で湯を沸かしたエドワードは自分の紅茶をいれて、自分の仕事机に向かおうとすると「私の紅茶は?」とグレースが声を掛けます。何となく、声に角があります。 グレースの手元には飲みさして、冷めてはいますが、ティー・カップがあります。エドワードは、一瞬、怪訝な表情を浮かべますが、そのカップに温かい紅茶を入れ直して、妻に差し出します。 映画の冒頭の、このシーンが、この映画の最も記憶に残ったシーンでした。夫を演じるビル・ナイの実年齢は73歳、妻役のアネット・ベニングは、たしか、ウォーレン・ベイティの奥さんだと思いますが、役柄としては若く見えますが、63歳。まあ、そういう年齢の夫婦の、えっ?なんかあったの?という感じを静かに漂わせる、この台所のシーンが、この映画のすべてでした。 ドラマが展開するにしたがって、夫が妻のもとを去る理由や、去られた妻の狼狽ぶりが、一人息子のジェイミー(ジョシュ・オコナー)を仲介役としてあからさまになっていくのですが、夫が妻のもとを去る「本当の愛」を見つけてしまったという理由が、あまりにありがちで「ウーん」と唸りそうでした。そういうものなのですかね? ぼくは、ビル・ナイという俳優が、「家庭」や「夫婦」という、人生の大半を占拠してきた「共同性」にうんざりした「孤独」を演じるという役柄を期待していたのですが、実に「まあ、そうなんだけど」としかいいようのない恋愛ドラマでした。 「愛し合っていた二人」の前にやって来た、三人目の他者が生み出す「あたらしい愛」が「以前の愛」の色合いを変えてしまうというのは、いわゆる三角関係のパターンで、新しくも何ともありません。 この映画ではそれを「三人の不幸な人間」のうちの二人に「幸せ」をもたらす関係の始まりというふうに、エドワードの恋人に言わせますが、30数年の結婚生活が、いつのまにか「不幸」を作り続けていたという、この発言の前提も、はっとするほどの創見というわけでもないでしょう。 三人目の「不幸」に取り残されたグレースの「死」の誘惑も、そこからの再生も、まじめに描かれています。しかし、ピンとこないというのが感想でした。 監督、ウィリアム・ニコルソンは73歳だそうですが、俳優たちの「芝居」のレベルの高さや、引用される「詩」の深さ、映し出される「風景」の美しさが見事にそろっているにもかかわらず、この展開で、この結末、ちょっと、首をかしげてしまいました。残念! 監督 ウィリアム・ニコルソン 脚本 ウィリアム・ニコルソン 撮影 アンナ・バルデス・ハンクス 美術 サイモン・ロジャース 衣装 スザンヌ・ケイブ 編集 ピア・ディ・キアウラ 音楽 アレックス・ヘッフェス キャスト アネット・ベニング(グレース・アクストン) ビル・ナイ(エドワード・アクストン) ジョシュ・オコナー(ジェイミー・アクストン) アイーシャ・ハート ライアン・マッケン サリー・ロジャース スティーブン・ペイシー ニコラス・バーンズ 2018年・100分・G・イギリス 原題:Hope Gap 2021・07・09-no63シネ・リーブル神戸no100 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.05.03 22:27:44
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