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100days100bookcovers-no56 56日目
篠原勝之『骨風』文藝春秋社 「鬼海なんて名前は一度出会えば・・・」 というKOBAYASI君の言葉に相槌を打ちながら、我が家の書棚に「世間の人」(ちくま文庫)なんていう文庫版の写真集があることなんて、すっかり忘れているのだから話になりません。 図書館の仕事をしていたときにも、写真の好きな同僚のために様々な写真集を書庫から引っ張り出したり、新入庫したりして、いろいろおしゃべりしていた中に奈良原一高さんの写真集もあったはずなのですが、写真家の名前なんて、 「ああ、そんな名前もあったなあ」 という感じで、困ったもんです。 というわけで、ちょっとエリアを変えたいのですが、塩野七生とかヴィスコンティとか、なかなか魅力的な名前も出てきましたし、ああそうだと思いついたのがヴィスコンティの「家族の肖像」でした。 「よし、それで行こう、あの人の「家族の肖像」があるじゃないか」 と思い付いたのが、保坂和志の「カンヴァセーションピース」という小説ですね。 ところが、この所よくあることなのですが、探し始めるとないのです。保坂和志の小説の山を探すのですが、「カンヴァセーションピース」だけがない!この間なかった「朝露通信」は二冊に増えているのに。 そして、なぜか、保坂の本の山の一番下でひっそり埋まっていた、このお宝を発見したのでした。 篠原勝之「骨風」(文藝春秋社)です。 写真家の文章というのなら 「ゲージツ家の小説」 で行けるじゃないか。まあ、前回、ピアニストの小説だったわけで、ちょっとパターンは似てますが、これは、これで、どうしてもお読みいただきたい作品です。 篠原勝之という人は「クマさん」という愛称の方が有名な「鉄の彫刻家」ですが、唐十郎の赤テントの初期のポスターの描き手だとか、赤瀬川原平や南伸坊のお仲間という方が通りがいいかもしれませんね。 上に貼ったのは、内モンゴルの草原の「天外天風」という篠原勝之さんの鉄の彫刻の写真ですが、現在は南アルプスの山ろくで「ゲージツ」なさっているようです。 その「ゲージツ家」、篠原勝之さんが書いた小説集が「骨風」です。「骨風」から「影踏み」まで八つの短編の連作です。「私小説」というべきでしょうか。18歳で故郷と家族を棄てたゲージツ家の生きざま、父、母、弟、例えば「矩形と玉」という作品は、極貧で、まだ何者でもなかった、自称「ゲージツ家」が、友達の南伸坊さんから生まれたばかりの仔猫を譲りうけ、23年間一緒に暮らし、最後を看取った愛猫GARAの話ですが、ほかの作品も、それぞれゲージツ家の日常と家族の物語の連作です。 家を出てから三十数年会うこともなかった母親と今さら頻繁に顔を合わせるのもきまり悪いやら照れ臭いやらで、近くに住むようになってからも部屋を訪ねるのはせいぜいふた月に一度ぐらいだった。その代わりに、いつでも話せるように年寄り向けの携帯電話を飼って渡すことにした。 「今日は はればれ」という短編の中の、笑えるエピソードなのですが、この作品を二度目に読むぼくには涙がこみあげてくるシーンなのです。 「ゲージツ家」の「普通の人間」を描く眼差しというのでしょうか。「楢山節考」の作家深沢七郎に私淑したらしい、「ゲージツ家」篠原勝之の、この母を見る眼は、深沢七郎が「おりん婆さん」を描いた眼差しに、とてもよく似ていると思うのです。 2015年の作品です。ほとんどが実生活の描写なのですが、決して、ウェットな作品ではありません。どちらかというと、乾いた、ハードボイルドな文体だと思います。 初めて読んで感心してから5年たったわけですが、この作品の「おもしろさ」を超える小説には、残念ながら、それから出会いませんね。今日は「手放しの絶賛」ということで、YAMAMOTOさんにバトンを渡しますね。(2020・12・20・T・SIMAKUMA) 追記2024・03・25 100days100bookcoversChallengeの投稿記事を 100days 100bookcovers Challenge備忘録 (1日目~10日目) (11日目~20日目) (21日目~30日目) (31日目~40日目) (41日目~50日目) (51日目~60日目)) (61日目~70日目) (71日目~80日目)という形でまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと備忘録が開きます。 追記 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.04.01 13:00:59
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