ジム・ジャームッシュ「ミステリー・トレイン」シネ・リーブル神戸 線路が上から映っているところにアメリカの旅客列車がやってきたと思ったとたんに暗転して、車内のシーンになりました。客室に二人の男女が向かい合って座っていて、いかにも、作り物めいた窓外の風景が流れていくなかで、二人が日本語でしゃべり始めたのに「はあー?」って思いました。
自分でいうしかないので言いますが、第1話「ファー・フロム・ヨコハマ」に出てきた二人の日本人俳優、工藤夕貴と永瀬正敏は、おそらくかなり有名なのでしょうが、まったく知りません。だから、かえって、ただのおバカな旅行者ぶりが、妙にリアルで、そのうえ、女性の名前が「みつ子」で、連れのリーゼント男に「じゅんちゃん」とかいいながらしなだれかかる「おバカぶり」とか、オイル・ライターを曲芸のようにもてあそぶ「おニーちゃん」ぶりとか、「スゴイ!」と思いました。
二人の名前なんて、日本映画なら「年増のおネーさん」と「ウソツキのツバメ」ってことになりませんかね。
最後まで見終えて、第2話「ア・ゴースト」でもルイーザのふるまいやディディとのやり取りの、まあ、どうでもいい、ちょっとしたことが笑えました。新聞売りのおニーさんの売り込み方なんてありえないのですが、あり得ちゃうんですよね。
第3話「ロスト・イン・スペース」のドタバタのなかの小さなシーン、けが人をトラックにほりこむとか、とりあえず撃ってしまうとか、あのあたりがこの監督の持ち味の一つなのでしょうか、笑えました。
ただ、題名にも使われているらしいプレスリーについては、本人も歌もあんまり好きじゃないこともあって、ぼく自身のテンションは、今一つ上がらなかったですね。それと「アーケード・ホテル」という「場」と「時間」の設定は、なんとなくありがち感を感じてしまいましたが、フロントの二人は、これまたとても良かったですね。こういう雰囲気は、ちょっとないですね。
やっぱり、なんとなく「どうでもいい」世界を作って見せてくれるのがこの監督らしいのでしょうか。褒めていいのか、貶していいのかわからない映画ですが、ぼくはかなり好きかもしれません。
それにしても、80年代の設定とはいえ、今どきのメンフィスとかに何で日本人のおバカ・カップルが出てくるんでしょうね。どうでもいいんですが、妙に気になりましたね。
まあ、しかし、お二人をはじめとした、俳優の皆さんの「おバカぶり」に拍手!
監督 ジム・ジャームッシュ
製作 ジム・スターク
製作総指揮 平田国二郎 須田英昭
脚本 ジム・ジャームッシュ
撮影 ロビー・ミュラー
美術 ダン・ビショップ
編集 メロディ・ロンドン
音楽 ジョン・ルーリー
キャスト
第1話「ファー・フロム・ヨコハマ」
工藤夕貴(みつこ)
永瀬正敏(ジュン・リーゼントの男)
第2話「ア・ゴースト」
ニコレッタ・ブラスキ(ルイーザ)
エリザベス・ブラッコ(ディディ)
サイ・リチャードソン(新聞売り)
トミー・ヌーナン(ダイナーの男)
第3話「ロスト・イン・スペース」
ジョー・ストラマー(ジョニー)
スティーブ・ブシェーミ(チャーリー)
3話共通
スクリーミン・ジェイ・ホーキンス(フロントの赤服)
サンキ・リー(ベル・ボーイ)
トム・ウェイツ(ラジオの声)
1989年・112分・アメリカ・日本合作
原題「Mystery Train」
2021・08・07‐no69シネ・リーブル神戸no105