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カテゴリ:週刊マンガ便「コミック」
山本おさむ「津軽 太宰治短編集」(小学館)
太宰治の小説が漫画になっていました。単行本の表紙の「太宰治」はとても有名なポーズの写真の模写ですが、なんだか39歳で亡くなった人の顔には見えない老成ぶりで、ちょっと笑ってしまいました。 描かれている作品は「カチカチ山」、「葉桜と魔笛」、「富岳百景」、「津軽」の四作ですが、どれもまじめ(?)に書かれていて、読みごたえがありました。 小説作品が映画化されることがありますが、原作とのつながりと隔たりが、特に傑作と言われたり、やたら流行った作品の場合気にかかってしまうことがあります。その結果でしょうか、映画を作っている人の原作に対する「解釈」を読み取りたい一心になってしまい共感や違和感にオタオタ振り回されて、落ちつかないまま見終えてしまったり、あほらしくなってしまうことだってありますね。 漫画化の場合はどうかというわけですが、たとえば近藤ようこさんのような、マンガ家の独特のなタッチというか、描線がおのずとオリジナルな世界をつくりだしていて、坂口安吾や夏目漱石の原作だということを、ことさら意識することなく読んでしまうものもありますし、最近面白くてはまっている勝田文さんの「風太郎不戦日記」のように、まあ、日記だからそうなるのかもしれませんが、作家に対するドキュメンタリー風な関心を感じさせる描き方もあります。 有名な古典作品は、子供向けの作品読み砕き的というか、まあ、解説のような作品もたくさんありますが、今回案内している山本おさむさんの「太宰治」は、そのどれとも違うというか、構成はシンプルなのですが、マンガ家自身の「太宰治」に対する「読み」の素直な真摯さが、そのまま描かれている印象で好感を持ちました。 ちょっと趣旨は違いますが、面白かったのは「富岳百景」でした。本書に所収されている四つの作品はどれも有名で、特に、この「富岳百景」に至っては高校生と一緒に何度も読んだ作品です。 名作の誉れ高いのですが、授業とかで扱うと困ってしまう作品でしたが、どうも山本おさむさんも困ったようですね。 この作品はストーリーらしいストーリーもなく、そしてかなり長いのに、なぜか最後まで読者を引っ張っていく力を持っている。
『「語る」とか「書く」とかいう行為の主体、まあ、「書き手」の「意識のうねり」のようなものが、文章化されていて、その大小の波に乗ってみることが「読む」ということかもしれないね。』 なんていうことを口走って、その場をしのごうとして、しのぎ切れなかったのですが、今思えば、太宰のこの作品は、小説そのものなのかもしれませんね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.01.31 00:33:51
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