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カテゴリ:週刊マンガ便「コミック」
武田一義「ペリリュー 楽園のゲルニカ(11)」(白泉社)
2021年の9月のマンガ便で到着しました。 武田一義「ペリリュー 楽園のゲルニカ 11巻」(白泉社)です。最終巻です。 敗戦を知らないまま1年半、パラオ諸島のペリリュー島で「従軍」していた田丸一等兵でしたが、第10巻で、所属部隊を脱走、ようやく米軍に降伏し、1947年に「復員」し、故郷の茨城県に帰ってきます。 マンガはこの巻から、少し構成が変わります。開巻、第3ページに描かれているのは、「2017年のペリリュ-島」です。 ヤシの木の下に立っているのは「田丸一等兵」のお孫さんで、後村亮という編集者です。顔が「吉敷君」に似ているのは、田丸一等兵が復員し、吉敷君の妹と結婚したらしく(詳しくは描かれていない)、二人の間に出来た男の子の子供が後村亮ということだからのようです。 後村亮は、生きて帰ってきた田丸君と、無念の死を遂げた吉敷君、両方の血族というわけです。 彼は2015年、1945年から70年後に、自分の祖父がペリリュー島の戦場を生きた人間であることに気づき、取材を始めます。 マンガは、後村君が90歳を超えて存命だった祖父、田丸さんから戦地と、復員後の戦後の生活を聞き取りながら、漫画に描くことを思い立ち、ペリリュー島を訪ねるという経緯を描いてゆきます。 祖父の取材のなかで、後村君が田丸さんに話しかけるこんなシーンがあります。 セリフを拾ってみますね。 「ぼくの死んだ父さんとはじいちゃんはこういう話をしたの?」 ご覧のページで田丸さんはここまで話して、言いよどんでいます。ページを繰ると、病院のベッドに腰かけて、外を見ながら、後ろに座っているお孫さんに、ひとりごとのように話しかけている田丸さんの後ろ姿と、その話を聞いている、お孫さんの後村君の姿が描かれています。 自分が セリフはここに引用しますが、画面はぜひお読みいただきたいと思います。ここまで読んできて、ぼくはこんな短歌を思い出しました。 中国に 兵なりし日の 五ケ年を しみじみと思ふ 戦争は悪だ 宮柊二この短歌が振り返っているのは、歌人自身の五年間なのですね。ぼくは、マンガの中で田丸さんがお孫さんに語った言葉を読み直して、この短歌の深さにようやく気付かされた気がしました。 後村君が祖父である田丸一等兵と大伯父である吉敷一等兵が70年前にいたペリリュー島を訪ね、若き日の二人がその中にいた海と空を見あげます。そのころ田丸さんは病室で吉敷くんの夢を見ます。 後ろ表紙に「戦争とは何だったのか、生還した兵士ひとりひとりに何を残したのか!?」と問いかけている本書に収められた80話~87話はすべて「鎮魂」と題されています。 「楽園のゲルニカ」と題したこの作品を描き上げた武田一義さんの気持ちがこもっている結末でした。多くの人に読んでいただきたい作品でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.08.18 12:52:28
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