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アンドリュー・レビタス「MINAMATA 」109シネマズHAT神戸 アメリカで「MINAMATA]を撮っているという噂を聞いたときから見るつもりでした。あのジョニー・デップが、あのユージン・スミスを演じる。もうそれだけで興味津々というわけでした。
ところが、関西で封切られて1週間の間に、新聞紙上でも映評が載ったりして、ちょっと騒ぎっぽいのでビビリました。三宮とかの映画館はヤバそうだと腰が引けて、ハット神戸の109シネマを予約して出かけました。 映画はアンドリュー・レビタス監督の「MINAMATA 」です。 ぼくはユージン・スミスという写真家の数ある写真の中で、「楽園へのあゆみ The Walk to Paradise Garden」という、写真家の長男パトリックと長女ホワニータだそうですが、小さな子供が手をつないで森のなかを歩いている後姿の写真が一番好きです。 ところが、映画の始めの頃、その写真が、なんだか、やけくそな雰囲気が漂っているユージン・スミスの仕事場の床に散らかる一枚として画面に出てきたあたりから、ドキドキしはじめました。 ひょっとして、この映画の主役は、あの「写真」、写真集「水俣」を見たことがある人であれば、きっと誰でもが心に刻み付けるあの「写真」なのではないか。それが、ドキドキの理由です。 「あの写真の、あのシーンを映画にするのか。そういえば、最初に映ったあのシーンは‥‥。」 そう思いはじめると、なぜだかわからないのですが、意識のなかに、あの「写真」が浮かんできてしまうのです。 ユージン・スミスが水俣にやってきて、マツムラさんのお宅にとまり、確か劇中では「アキ子ちゃん」と呼ばれていたと思うのですが、マツムラさん夫婦の娘で、胎児性水俣病の少女の写真を撮りたいという希望が拒否されるのを見ながら、やはりそうだという確信に変わったのですが、繰り返しその写真が浮かんできて、なぜだかよくわからないのですが、映画の展開とは何の脈絡もなく、だらだら、だらだら、涙が流れ始めて止まらなくなってしまったのです。 あの写真というのは、ユージン・スミスの傑作写真、「入浴する智子と母 Tomoko and Mother in the Bath」です。 あれこれ言いたいことはありますが、結論を言えば、やはり、あの写真が主役でした。 最初に撮影を拒否された、「アルコール依存症」で「外人」の写真家ユージン・スミスが、誰との、どんな出会い、どんな凌ぎ合いをへて、あの写真を撮る現場にたどり着いたか。その時、彼の眼はカメラを通して何を見ていたのか。彼の写真は何を写し出しているのか。 映画は、一つ一つ問いかけ、一つ一つ答えるかのよう、実に素朴に一人の「人間」を描いていきました。そしてあの写真の場面にたどり着くのです。 彼がそこに何を写しているのか、それはうまく言えません。しかし、初めて出会ったときから、印象深く感じながらも、おそるおそる見ていたこの写真を、この先、「美しい写真」として見ることができるようになったと思いました。 この映画が、ぼくにくれたのはそういう「勇気」のようなものでした。あのジョニー・デップが、どんな思いでこの写真を撮る「人間」を演じたのか、それを思い浮かべながら、世の中、まだまだ捨てたものじゃないし、世界は広いし、ピュアな気持ちを仕事で表現している人がいることを実感しました。 なんだか「老け込むんじゃないよ!しっかりしろよ!」と励まされたような気持になる映画でした。 それにしても化け方がすごいジョニー・デップに拍手! 監督 アンドリュー・レビタス 脚本 デビッド・ケスラー スティーブン・ドイターズ アンドリュー・レビタス ジェイソン・フォーマン 撮影 ブノワ・ドゥローム 音楽 坂本龍一 キャスト ジョニー・デップ(W・ユージン・スミス) 真田広之(ヤマザキ・ミツオ) 國村隼(ノジマ・ジュンイチ) 美波(アイリーン) 加瀬亮(キヨシ) 浅野忠信(マツムラ・タツオ) 岩瀬晶子(マツムラ・マサコ) キャサリン・ジェンキンス(ミリー)キャサリン・ジェンキンス ビル・ナイ(ロバート・“ボブ”・ヘイズ) 青木柚(シゲル) 2020年・115分・G・アメリカ 原題「Minamata」 2021・10・04‐no89・109シネマズHAT神戸 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.05.27 10:54:16
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