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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2021.11.03
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​​週刊 読書案内 茨木のり子「詩のこころを読む」(岩波ジュニア新書)​​ ここのところ茨木のり子の詩を懐かしく読んでいて、この人の本で最初に読んだのがこの本だったことを思い出しました。​
​​ 岩波ジュニア新書「詩のこころを読む」です。
 今、手にしている本の奥付を見ると、初版1979年で、1980年11月第7刷となっています。おそらくチッチキ夫人の棚にあった本です。「茨木のり子」「谷川俊太郎」を、ぼく自身が、自分で購入した覚えがほとんどありません。みんな、同居人の本棚のお世話になって読みました。​​

 この本も例にもれませんが、仕事柄もあるのでしょうね、かなりお世話になった記憶があります。まあ、いまさらのような本なのですが、読み返してみながら、どなたかが新しく手にとられても、やはり、面白さは生きているし、若いひとが「詩」について考えるための、率直な手立てとなるなにかを備えている本だと思いました。
 ​あらためて私の好きな詩を、ためつすがめつ眺めてみよう、なぜ好きか、なぜ良いか、なぜ私のたからものなのか、それをできるかぎり検証してみよう、大事なコレクションのよってきたるところを、情熱をこめてるる語ろう、そしてそれが若い人たちにとって、詩の魅力にふれるきっかけにもなってくれれば、という願いで書かれています。​(中略)​

 自然に浮かびあがってきたものを、どう並べようかと思ったら、偶然に「誕生から死」までになってしまったもので最初からのプランではありません。​(「はじめに」)​
 ​​「生まれて」、「恋唄」、「生きるじたばた」、「峠」、「別れ」の5章立てで構成されていますが、それが茨木のり子さん人生の「時間」のめぐり方です。​​
 約50編の詩について、それぞれの作品がそれぞれの「時間」の中でうまれた「ことば」として読み解かれていて、彼女の率直でストレートな読み方が「若い人たち」に向けて、飾ることなく、すっと差し出されている1冊です。
「生まれて」と題された第1章の始まり、本書の巻頭に据えられている詩はこの詩でした。
​​  かなしみ   谷川俊太郎

あの青い空の波の音が聞こえるあたりに
何かとんでもないおとし物を
僕はしてきてしまったらしい

透明な過去の駅で
遺失物係の前に立つたら
僕は余計に悲しくなってしまった​​
​​ つづけて引用されるのが石川啄木のこの歌です。​​
不来方のお城のあとの草に臥て
空に吸われし
十五のこころ(「一握の砂」)
 ​で、こんな解説が挟まれています。
 ほんとうは色なんかついていない茫々とした宇宙の空間、それなのに真青にみえる果てしない空というもの ― 寝ころびながら見ていると、自分が母親のおなかのなかから生まれてきたというより「あの青い空の波の音が聞えるあたり」を通って、やってきたんだ!この地球の上に。そんな実感が強く来たらしい。
​​ ​お気づきかと思いますが、「そんな実感が強く来たらしい」と解説されているのは「かなしみ」を10代で書いた谷川俊太郎です。
 谷川俊太郎という詩人にとっての「青空」の意味と、詩を書いたり読んだする十代の少年や少女の「こころ」が、啄木の短歌の引用で繋げられて、最後にこんな引用です。​​

空の青さをみつめていると
私に帰るところがあるような気がする
​(「六十二のソネット」所収「空の青さ」部分)
​ こんな感じで、15歳くらいの読者は一気に詩の世界に引き込まれていくはずなのですがどうなのでしょうね。ジュニア新書ということもあって、高校生にもよくすすめましたが、今読みなおしても、まあ、うまいものだと思います。
 ついでなので、今回読み直して懐かしかった詩を引用しますね。一つ目は「恋唄」の章に出てきた黒田三郎の詩です。
   賭け   黒田三郎

   五百万円の持参金付きの女房を貰ったとて
   貧乏人の僕がどうなるものか
   ピアノを買ってお酒を飲んで
   カーテンの陰で接吻して
   それだけのことではないか
   新しいシルクハットのようにそいつを手に持って
   持てあます
   それだけのことではないか

   ああ
   そのとき
   この世がしんとしずかになったのだった
   その白いビルディングの二階で
   僕は見たのである
   馬鹿さ加減が
   丁度僕と同じ位で
   貧乏でお天気屋で
   強情で
   胸のボタンにはヤコブセンのバラ
   ふたつの眼には不信心な悲しみ
   ブドウの種を吐き出すように
   毒舌を吐き散らす
   唇の両側に深いえくぼ
   僕は見たのである
   ひとりの少女を

   一世一代の勝負をするために
   僕はそこで何を賭ければよかったのか
   ポケットをひっくりかえし
   持参金付きの縁談や
   詩人の月桂冠や未払の勘定書
   ちぎれたボタン
   ありとあらゆるものを
   つまみ出して
   さて
   財布をさかさにふったって
   賭けるものがなにもないのである
   僕は
   僕の破滅を賭けた
   僕の破滅を
   この世がしんとしずまりかえっているなかで
   僕は初心な賭博者のように
   閉じていた眼をひらいたのである
   ​(詩集『ひとりの女に』)​
​ ​​​いや、ほんと、懐かしいですね。久しぶりに黒田三郎を読みました。彼の詩は男の子と女の子、どっちに受けたのでしょうね。で、もう一つが「峠」の章に引用されていた河上肇です。​​​
 旧い友人が新たに大臣になつたといふ知らせを読みながら

私は牢の中で
便器に腰かけて
麦飯を食ふ。
別にひとを羨むでもなく
また自分をかなしむでもなしに。
勿論こゝからは
一日も早く出たいが、
しかし私の生涯は
外にゐる旧友の誰のとも
取り替へたいとは思はない。
​ この詩を読んで、今の若い人が「河上肇って?」と思って、彼の本に手を出したりすることは、もう二度とないのでしょうか。
 実は、彼の文章の大半はネットの図書館、青空文庫で読めるのです。問題は「河上肇」という名前を思い出すかどうか、興味を持つかどうかですね。

 まあ、「こんな本ありますが、いかがですか」と言って差し出すことぐらいはできるかなというのが、今回の案内の目的でもあるわけで、のんびり続けていこうと思っています。
 それでは、また覗いてくださいね。バイバイ。

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最終更新日  2023.05.09 00:50:09
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