|
カテゴリ:映画 フランスの監督
ロベール・ブレッソン「やさしい女」KAVC
監督がロベール・ブレッソン、原作がドストエフスキー、この二つの条件で、見ないわけにはいかないという結論に達してやって来たKAVCでした。50年前の作品です。朝一番、の10時過ぎの上映という悪条件にもめげずやってきたのは、何かがよく分かることを求めてではありません。何しろ、ロベール・ブレッソンですから。薄暗い、モノクロの映像のなかのロバと少女の表情に、ある種呆然としながらも、なんだかよくわからいまま揺さぶられた相手です。どうせ、わからないに決まっています。だから、どうっだっていうのでしょう。 今回はカラーでした。誰もいないベランダでテーブルが倒れ、白いショールが空中に舞うシーンで映画は始まりました。 「死んでいないもの」という小説の題名がありましたが、最後のシーンまで繰り返し、その題名を思い浮かべていました。 死んでしまった女(ドミニク・サンダ)について、残された男(ギイ・フライジャン)が、祈っているメイド(ジャン・ロブレ)に語り続ける作品でした。 男が語っている部屋の真ん中には、最初から最後まで、ベッドから足が少しはみ出している女が横たわっています。この、ベッドからはみ出ている足というのが気にかかりって、記憶に残りました。 養老孟司すが、死者に対する人称ということを想起させる映画でした。 死体に1人称はあり得ないが、2人称の「あなた」であるかぎり死者は死体になりきれない。ゆっくりと3人称、つまりは、未知の他人、ただの死体になってゆくという話です。2人称である限りにおいて、死者は「死んでいないもの」ということなのですが、この映画は男にとって女は3人称でしかありえないということを語っているように思えました。 映像はベッドに横たわっている女を「私の恋人」あるいは「妻」として、すなわち、2人称の存在として語り続けている男の記憶と、カメラだけが知っている一人の女の素顔の組み合わせなのですが、語り続ける男にとって女は永遠に「あの女」、3人称でしかありえない空虚な事実と、女が1人称として垣間見せる表情が謎のまま差し出されていることが印象深い作品でした。 男の職業が質屋の鑑定士であることが、なかなか意味深だと思いましたが、ただただ「謎」として存在する女を演じたドミニク・サンダに拍手!でした。ともかく、そこに映っている表情が謎なのでした。もっとも、この表情を撮ったというか、そのまま映し出した、いや、それ以上に、こんなふうに「女」を描いた監督ロベール・ブレッソンに拍手!ですね。蛇足ですが、色がついても、ブレッソンはブレッソンでした。 やっぱり、というか、覚悟していた通りというか、何がなんだかよく分からない魅力的な映画でした(笑)。 監督 ロベール・ブレッソン 製作 マグ・ボダール 原作 フョードル・ドストエフスキー 撮影 ギスラン・クロケ 美術 ピエール・シャルボニエ 音楽 ジャン・ウィエネル キャスト ドミニク・サンダ ギイ・フライジャン ジャン・ロブレ 1969年・89分・フランス 原題「Une femme douce」 日本初公開:1986年3月29日 2021・11・23‐no113・KAVC お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.20 23:14:17
コメント(0) | コメントを書く
[映画 フランスの監督] カテゴリの最新記事
|