サラ・フィシュコ「ジャズロフト」KAVC 1950年代の終わりころから、写真家ユージン・スミスが、ニューヨーク、マンハッタンのロフトに住み込み、その「部屋(?)」に出入りする、今では、ほとんど伝説化してるジャズ・ミュージシャンたちや、様々なクリエイター、とどのつまりは、あのダリまで登場するというおそるべき「空間」と「時間」の、ほぼ十年をドキュメントした作品でした。
第二次世界大戦末期、報道カメラマンとして撮った激戦地沖縄などの印象的な戦場の写真やシュバイツァーを撮った連作、そして、ぼくにはわすれられない「楽園へのあゆみ」で、世界的カメラマンになったユージン・スミスが家族と別れるいきさつがナレーションと写真で語り始められます。
写真と若干の映像、そして録音された音、ナレーションで構成された映画でしたが、ぼくのように何も知らない観客にも、ユージン・スミスの生きた時代と世界、そしてユージン・スミスという人間そのものを感じさせる、とても刺激的な作品でした。
ロフトでの彼のふるまいは「オタクの極致」です。集まってくるミュージシャンの演奏だけではなく、そこに人がいる様子の完璧な録音を求めている様子は、彼自身の世界に対する構え方、あるいは「芸術哲学」を感じさせます。
この映画で、最も印象に残ったのは、彼の「写真作法」とでもいえばいいのでしょうか、撮影し終わったネガから印画紙に焼き付ける作業の現場で、執拗に「光」を「作り出していく」様子が紹介されていますが、写真という芸術がカメラマンによって作り出されていく作品であるということを、初めて実感しました。
この映画には「楽園へのあゆみ」という作品の少年だった、スミスの息子さんの回想があります。そこで、彼は「手をつなぐとか離すとかいろいろなポーズを要求された」という微笑ましい発言がありましたが、写真を撮るという行為の始まりから、現像、焼き付け、そして複数の写真の連作化に至るまで、ユージン・スミスという写真家の「写真」という芸術作品の創作過程の報告として、聞き逃せない意味を持つ発言だと思いました。
ぼくにとって、この映画の、もう一つの驚きはもちろん登場人物の顔ぶれです。チラシの写真でピアノを弾いているのはセロニアス・モンクですが、彼の声やピアノに触るしぐさ、指の形、その指がちょっと鍵盤に触る音。
学生時代、友達のLPレコードを借り出して、一枚一枚カセットテープに録音したセロニアス・モンクが目の前にいるのです。もう、なんともいえないですね。
古い記録を、見ごたえのあるドキュメンタリーに仕上げた監督、サラ・フィシュコに拍手!でした。
監督 サラ・フィシュコ
製作 サラ・フィシュコ カルビン・スカッグス サム・スティーブンソン
脚本 サラ・フィシュコ
撮影 トム・ハーウィッツ
キャスト
サム・スティーブンソン
カーラ・ブレイ
スティーブ・ライヒ
ビル・クロウ
デビッド・アムラム
ジェイソン・モラン
ビル・ピアース
ユージン・スミス
セロニアス・モンク
ズート・シムズ
ホール・オーバートン
2015年・87分・アメリカ
原題「The Jazz Loft According to W. Eugene Smith」
2021・11・19‐no112・KAVC(no17)
追記2023・09・05
元町映画館が、今年の8月の末に「モトエイ的JAZZ映画特集」と銘打って企画して再上映していました。わが家ではチッチキ夫人が見に行って、納得だったようです。