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アッバス・キアロスタミ「クローズ・アップ」元町映画館 「現代アートハウス入門」という企画が「東風」と「ユーロスペース」という二つの配給会社がタッグを組んで今年、2021年の2月にあったのですが、神戸では元町映画館が会場でした
で、その第2弾が「現代アートハウス入門vol 2」と銘打って、やっぱり元町映画館で2021年の12月11日から始まりました。 初日はアッバス・キアロスタミ監督の「クローズ・アップ」です。ぼくはこの監督が評判になり始めた1990年代から30年映画館から遠ざかっていましたが、名前だけは知っていました。確か、元町映画館が、来年2022年の年明けに特集を企画しているはずで、それを心待ちにしていましたが、一足早く上映されるというわけです。その上、この企画の目玉であるレクチャーが深田晃司監督ということですから、勇んでやってきました。見たのはキアロスタ三監督の「クローズ・アップ」です。 週刊誌の記者がタクシーの助手席に座って運転手相手にシャベリたおしているシーンから映画は始まりました。 サブジアンという男がモフセン・マフマルバフという有名な映画監督に間違えられたことをいいことに、その監督に成りすまし、勘違いした一家をだましているらしいのだが、自分が行ってそれを確かめるという、なんというか荒唐無稽な話をまくしたてているのですが、映画はサブジアンという、仕事もなく妻にも逃げられた男の「成りすまし」事件をドキュメンタリーなタッチで描き始めます。 裁判のシーンとか、ものすごくドキュメンタリーなイメージですが、どうも怪しいのです。虚実の薄い皮一枚、どうも虚ではないかと疑いながら、しかし、夢中になって見終えました。 帰宅して、解説を読むと、話は実話であり、登場人物たちは、俳優ではなくその事件の当事者だというではありませんか。おそらく、事件の場面を再現しているのでしょうね。事件の最中に、裁判所のシーンも含めて、カメラが作動しているということ自体がありえないわけですから。というわけで、まず、この方法論にびっくり仰天です。 で、実話の登場人物による事件の再現という方法で、キアロミスタ監督は何を描こうとしていたのでしょう。そこが問題なのですが、ぼくは、あれこれ考える以前に不思議な体験をしました。 裁判所で問い詰められていくサブジアンの表情がスクリーンいっぱいに広がり、口から出てくる言葉の字幕を追います。母親の訴え、裁判官の諭すような言葉も同様です。最後に被害者の許しの発言を耳にしていると画面が変わりました。 何日間かの刑務所暮らしの結果でしょう、出所するサブジアンを、彼に成りすまされた、当のマフマルバフ監督が迎えます。オートバイの後ろにサブジアンを載せ、途中の花屋で「黄色より赤がいい」と赤い花の鉢植えを買わせ、被害者の家を訪ねます。40日ぶりだそうです。40日という数が怪しいとふと思いました。 監督が同行していることを知って、被害者アカンカハー家のドアが開きます。画面には赤い花の鉢植えを抱えたサブジアンが大きく映しだされ映画は終わります。 そのとき、 「サブジアンはあなただ!」というキアロスタミのささやきがぼくには聞えた気がしたのです。思わず 「そうだよな、そうだよな。」と繰り返しつぶやきながら、涙が止まりません。サブジアンこそ、情けなくてやりきれない、ぼくたちのような「人間」そのものだということをキアロスタミは描いたのではないでしょうか。 いやはや、すごい映画があるものですね。深田監督のレクチャーも面白かったのですが、帰りの最終バスが終わってしまうこともあって、お話の途中で早引けしました。 ちなみに40日というのは、キリスト教なら四旬節ですね。日本の仏教なら49日、この映画はイランの作品ですから、ムスリムのラマダンなら30日でしょうか?まあ、それにしても気になりますね。 マフマルバフがサブジアンに「黄色い花」ではなく「赤い花」を選ばせるのも意味深な気がしました。花の鉢を抱えるラストシーンにぼくは祝福を感じましたが、本当にそうだったのかどうか。ほかにも気づけていない徴(しるし)が仕込まれているのかもしれません。 何はともあれ、ただ、ただ、キアロスタミ監督に拍手!でした。 監督 アッバス・キアロスタミ 脚本 アッバス・キアロスタミ 製作 アリ・レザ・ザリン 撮影 アリ・レザ・ザリンダスト 録音 モハマッド・ハギギ 編集 アッバス・キアロスタミ 字幕 齋藤敦子 キャスト ホセイン・サブジアン ハッサン・ファラズマンド アボルファズル・アハンカハー メハダッド・アハンカハー ハスハング・シャハイ モフセン・マフマルバフ 1990年・イラン 原題「Close Up」 2021・12・11‐no129元町映画館no97 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.06 10:28:48
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