濱口竜介「偶然と想像」元町映画館
2022年の「元町映画館」での映画始めの作品でした。年末から封切られていたのですが、かなりな人気で連日満員という、新コロちゃん騒ぎが始まってからあり得なかった事態になっていて、映画館にはとてもいいことなのですが、ぼくはビビってパスしていました。
「ドライブ・マイ・カー」、「スパイの妻」、「寝ても覚めても」、「ハッピーアワー」と、一応、浜口竜介の作品を見て来たので見ようかなという気分で見ました。ぼくにとって、この監督さんは、どの作品も納得の一つ手前みたいな人なので、困るのですが、元町映画館の受付嬢にもすすめられて、「見る」と約束していたことも理由の一つで、出かけました。
映画は浜口竜介監督の「偶然と想像」です。トータルには「偶然と想像」という題がついているのですが、三つの短編(?)のオムニバス形式でした。で、見終えて、やっぱり、なんだか、疲れました。
セリフとシチュエーションの緊張感で観客を引っ張る感じなのですが、セリフの内容とシチュエーションの偶然性にノレないと、疲れる映画だと思いましたし、事実、疲れました。作品の中に「見え」を切っている監督がいる感じといえばいいのでしょうか。やっぱり
「なんだかなー・・・」
という印象でした。
三つの短編の一つ目の「魔法」では、最初のタクシーのシーンでオシャベリを交わしあう芽衣子(古川琴音)とつぐみ(玄理)という二人の女性の顔立ちが、最後のシーンでは別人のように見えたのに驚きました。「出来事というか内実を知ると、人の見かけは変わるんだなあ」という驚きで、演技的な表情というか演出に対する驚きではありません。
でも、そういう意味では古川琴音という役者さんは、次にどっかで見かけると気付きそうです。
二つ目の「扉は開けたままで」では、芥川賞作家である瀬川先生(渋川清彦)の文学論(?)に吹きそうでした。若き日の村上龍みたいな描写を女子大生が読み上げるシーンなのですが、まあ、映画の客のためのセリフなのでしょうが、
「ことばがことばを要請する」
とか何とか、もっともらしいのですが、そういうシーンじゃないところがすごいなあという感じでした。
それにしても、あのメールが何故スキャンダルになるのか、今一よくわかりませんでしたが、何の罪もない瀬川先生はかわいそうな話でした。
三つ目の「もう一度」は、65歳を過ぎて、世間や知人を忘れ始めている人間だから、余計にそう感じたのでしょうが、偶然とはいえ、あまりのありえなさ、ちょっと引きました。顔の印象ということについて「話半分」で思いついて作ったんじゃないかという気がしました。
でも、面白いもので、この作品は「結構いいな」って思ったのですから、不思議といえば、不思議です。映画のシチュエーションって嘘でいいのですね。で、ウソから出たマコトが、この作品はさほどウザクなかったということかもしれません。 まあ、これらの作品で「偶然」でならあるかもしれないという感じのリアリティは、ぼくには皆無でしたが、それぞれの会話のシーンには結構ドキドキしました。
で、その時、やっぱりこの映画の「白熱」の会話シーンは映画の会話だと思いました。あんな会話を舞台でされても、たぶん聞き取れないし、表情をかぶせてくる「作り方」で引き込まれているわけですからね。かろうじて第三話の会話は舞台でもできそうだと思いましたが、だからよかったというわけでもありません。まあ、それはそれでいいのですよね。
最後まで、トータルのタイトルになっている「想像」のほうが、何をさしているのかわからなかったですね。まあ、そういう、なんやかんやで、またしても、よく分からない浜口竜介さんでした。なんでかな?
監督 濱口竜介
脚本 濱口竜介
撮影 飯岡幸子
キャスト
第1話『魔法(よりもっと不確か)』
古川琴音(芽衣子)
中島歩(和明)
玄理(つぐみ)
第2話『扉は開けたままで』
渋川清彦(大学教授・瀬川)
森郁月(奈緒)
甲斐翔真(大学生・佐々木)
第3話『もう一度』
占部房子(夏子)
河井青葉(あや)
2021年・121分・PG12・日本
2022・01・07-no002・元町映画館(no104)