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カテゴリ:読書案内「昭和の文学」
堀田善衛・司馬遼太郎・宮崎駿「時代の風音」(UPU・朝日文庫) 先だって、堀田百合子さんの「ただの文士」(岩波書店)を案内しましたが、ついでと言ったらなんですが、堀田善衛入門の1冊としては、こんな本もありますよね、と思い出したのがこの本です。
堀田善衛・司馬遼太郎・宮崎駿「時代の風音」(UPU・朝日文芸文庫) 実はこの本は、すでに朝日文庫に入っていて、入ってから25年経つ古い本です。1992年に元の単行本が出版された本ですから、今年、2022年でちょうど30年前の本ということです。 文庫の表紙カバーは朝日文庫の定番ですが、単行本はカバーが宮崎駿が描いた海賊船の、マンガ風のイラストで、これがとてもいいと思います。どちらにしても古本でお読みになるなら、値段は大差ありません、表紙がステキな単行本を選んだ方がいいんじゃないでしょうか。 思わず、言わずもがなですね。昨今の風潮では、読んだ後の「書籍」はごみ扱いですから、まあ、買うということからしてあり得ないのかもしれませんが(笑)。 さて、この対談、三人ですから鼎談ですが、の当時、宮崎駿は「紅の豚」を完成させて、いったんジブリを離れていた時期のようです。ヒマだったのでしょうね、会いたい人と会っておしゃべりをしているのですが、宮崎駿の堀田びいきは筋金入りのようで、あこがれの人にあってうれしくてたまらない少年の雰囲気が本全体にあります。 もしもお読みになれば感じられると思いますが、鼎談とはいいながら、宮崎駿にとって、彼の意識の上でも、それぞれの作家の実力の上でも、相手がすごかったのですね、いや、すごすぎたというべきでしょうか。博覧強記の権化のような司馬遼太郎と、1930年代の上海を知っていて ― これがまずスゴイ ― ヨーロッパで暮らしながら「藤原定家」や「ゴヤ」、「モンテーニュ」の伝記を書いた堀田善衛です。語り合いのなかでは、全く勝負にならない小僧っ子として宮崎駿が聞き役でした。 振り返ってみれば司馬遼太郎が1990年、堀田善衛が1998年、ともに鬼籍に入り、20年以上の年月が経ちました。司馬遼太郎が対談した本としては、ほとんど最後の本だと思います。彼も、堀田善衛と会ってのんびり話していることが楽しくてしようがない雰囲気です。ひょっとしたら遺言といってもいい「声」が残されているのかもしれません。 宮崎駿にしても、この後、ディズニーと組んで世界征服するジブリの経営はともかく、この対談の話題の中に「物の怪」の話も出てくるのですが、「もののけ姫」から2020年代に至る、その後の宮崎駿を考えると、彼自身の時代の証言というか、その時、彼は何を考えていたのかということを感じさせるという意味でも面白い記録です。 話題は多岐にわたるのですが、30年たって振り返ると、三人三様に、実にまともな状況認識だったことに感嘆!します。 まあ、とりあえずぼくとしては、正直、堀田善衛に再入門しようかなという感じですね。 お若いみなさんも、このあたりから始められたらどうでしょうか。たとえば、ジブリのファンの方が、堀田善衛の社会時評や評伝、司馬遼太郎の「街道をゆく」(朝日文庫)のシリーズをはじめとした歴史評論の世界をお読みになれば、宮崎駿の「マンガの世界」が、実の歴史や社会と結構、地続きで構想されているらしいという面白さにも会えるような気がします。 対談集で、おしゃべりしあっている本ですから、読みやすいですよ。いかがでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.04.18 10:03:52
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