|
ケネス・ローチ「夜空に星のあるように」KAVC ほんの1本か2本しか見ていない監督で、「ああ、この人の作品は、できればみんな見てみたい。」と思う人が時々います。見た作品でも、映画館でレトロスベクティヴとかで特集されると、「ああ、もう一度行かなくちゃあ」と思う人もいます。
ケン・ローチはそういう監督で、KAVCが彼の50年以上も前の劇場映画デビュー作「夜空に星のあるように」をやっているというのででかけました。 2022年の初のKAVCでしたが。ここではいつものことですが、客は数人でした。いつも座る席にいつものように座って映画が始まりましたが、いきなり赤ん坊がお母さんのおなかから生まれてくる実写シーンで、正直ギョッとしましたが、そういえば先日見た「アイカ」という映画でも同じようなシーンで始まったことがふと浮かびました。アイカは赤ん坊をおいて逃げ出しますが、この映画の主人公のジョイ(キャロル・ホワイト)は赤ちゃんを受け取りおっぱいを含ませたのでホッとしました。 ロンドンの労働者階級に生まれた18歳のジョイは、泥棒稼業で生計を立てている青年トム(ジョン・ビンドン)と成り行きで結婚し、妊娠し、出産したようです。夫(?)のトムは赤ん坊にも無関心だし、、ジョイにも暴力をふるう男です。その上、彼は「詐欺」とか「空き巣」とかを生業にしています。いいかげん、そんな夫に嫌気がさしていたある日、トムはついに逮捕され、ジョイは坊やを連れて叔母の家に居候ということになります。 もうこの辺りで、この映画の焦点が、かなり明らかな感じで、彼女が新しい男として、夫の仲間だったデイヴ(テレンス・スタンプ)に惹かれていく様子には、「ああ、どう繰り返すのだろう?」という、ある種絶望的な気分でジョイとその坊やの姿を見続けることになりました。 人柄としては、やさしくて、いい奴であるデイブも、生業は泥棒です。ジョイだって「盗み」を否定しているわけではないというか、ほとんど共犯といってもいい暮らしです。 映画が描いているのは「盗む」ことしか生きるための方法を思いつけない「人間」であり、そんな人間をつくりだす「社会」だと思いました。ドキュメンタリィーなタッチで描かれていて、「Poor Cow」(直訳すれば、哀れな牝牛ですが・・・)の題名通り、主人公のジョイに対しても情け容赦ありません。 ノンビリ「働く」ことで生きることができた老人には、唖然とする展開でした。1960年代のイギリス社会の「現実」に対するケン・ローチの怒りが、映像の底にわだかまっているとしか思えない殺伐たる展開の映画でした。 ただ、ラストシーンですが、ほったらかしにされて行方のわからない坊やを、取り壊される貧困集合住宅の工事現場で探し回るジョイの姿に、やはり胸を打たれるわけで、やっぱりこの監督の映画は、上映されれば見に行くでしょうね。 才気のままに怒りをぶちまけたかのような、若き日のケン・ローチに拍手!かな? 監督 ケネス・ローチ 製作 ジョセフ・ジャンニ 原作 ネル・ダン 脚本 ネル・ダン ケネス・ローチ 撮影 ブライアン・プロビン 編集 ロイ・ワッツ 音楽 ドノバン キャスト キャロル・ホワイト(ジョイ) テレンス・スタンプ(デイヴ) ジョン・ビンドン(トム) クイーニ・ワッツ ケイト・ウィリアム 1967年・101分・イギリス 原題「Poor Cow」 日本初公開1968年11月16日 2022・01・14-no8・KAVC(no18) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.04.13 01:23:17
コメント(0) | コメントを書く
[映画 イギリス・アイルランド・アイスランドの監督] カテゴリの最新記事
|