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カテゴリ:読書案内「日本語・教育」
100days100bookcovers no66(66日目)
兵庫県在日外国人教育研究協議会『高等学校における外国につながる生徒支援ハンドブック~すべての生徒が輝くために~』 「復活」を宣言しながら遅くなりました。 相変わらず世の中は落ち着きませんね。新型コロナ感染者は増え続けているのにワクチン接種はなかなか進みません。 そんな人間世界をせせら笑うかのように、自然は例年より早く動いているようです。桜の開花も種類によって長く楽しませてもらいました。自宅の裏庭にも梅、椿、山桜、牡丹、シャガ、満天星つつじ、芝桜などが順に花を咲かせ、心を慰めてくれています。今は木々の緑が一斉に萌え、目に眩しいです。 さて、ブックカバー・チャレンジは萩尾望都「ポーの一族」、ちばてつや「あしたのジョー」、「アウシュビッツを志願した男」、エーリヒ・ケストナー「飛ぶ教室」と続きました。それらの本を懐かしく、読みたいと思い、その延長の文学から次の作品を探そうと思っていましたが、あまり時間の余裕はありません。そこで、勝手ながら「少年や少女たちの物語」という文脈に無理やりこじつけてこの冊子を紹介させてください。 『高等学校における外国につながる生徒支援ハンドブック~すべての生徒が輝くために~』 編 集 / 高等学校における外国人生徒支援ハンドブック作成委員会 発 行 / 兵庫県在日外国人教育研究協議会【兵庫県外教】 印刷・製本 / ミウラ印刷 この3月末に発行したばかりのハンドブックで、まだほぼ世に出ていません。みなさんのお手元にないことをわかっていながらの選択ですみません。しばらく頭を悩ませ、今年に入ってからは編集作業に追われ、この「100days100bookcovers」リレーの1回休みの原因の冊子です。8月から準備、9月から実質スタート、3月末に発行したという突貫工事でした。ひょうごボランタリー基金助成事業(地域づくり活動NPO事業助成)なので、会計年度が厳格なのです。主な贈呈先に送付し、その後助成金の報告作業や関係者への配布などを終えました。予定外の事務所の急な移転のための引っ越し作業などもあり、相変わらず慌ただしい日々を送っていました。そんな中、ふと「あ、このハンドブックも少年少女たちの物語だ!」と、思い至ったのです。 昨日の朝刊(朝日新聞4.13オピニオン&フォーラム)にNPO法人自殺対策支援センターライフリンク代表の清水康之さんのインタビュー記事が掲載されていました。タイトルは、「生きるのをやめたい国」―自殺者が11年ぶりに増加、女性や若者が「生きるのをやめたい」と「生」が脅かされていると。もちろん、コロナが引き金になっているのだけれど、コロナ以前からも勤務していた高校で、生徒たちが学校で生きにくい思いをしていると感じていました。もちろん、多くの生徒は楽しく、充実した学校生活を送っていると思うのですが…。ベルトコンベアーのように学校で勉強していい大学に入って生活の安定が保障される仕事に就いて…という人生だけではないはずなのに、それ以外の選択肢をあまり提示できない日本の教育。会社に入っても心と身体を疲弊させてしまう働き方を改革することができていない。(最近変わってきたのでしょうか?私はまだ楽観的になれないのです。)中・高生の自殺者も、あまりニュースにはならないけれど、身近なところで少なくなかったのです。 ハンドブックに表面的には関係がないような今朝の新聞記事の話題を紹介しましたが、私の中では地続きなのです。多様な、それぞれの個性が生かされず、認められない、そんな窮屈なこの国のままでは希望が持てないという点で。 2019年の文部科学省発表は、大きな衝撃を与えました。 「日本語指導等特別な指導を受けている者の割合は外国籍児童生徒で79.3%、日本国籍は74.4%」 高校の中退は、その後の就職に大きくかかわります。本人の希望や努力と関係なく、外国につながる生徒たちは、学びを保障されていません。「外国につながる生徒」というのは、外国籍生徒だけでなく、日本国籍で外国にルーツのある生徒も含みます。日本国籍の生徒で日本語が話せない生徒もいます。義務教育でもその支援は大きな課題で、長年様々な取り組みがされてきました。ようやく兵庫県の公立高校に外国人特別枠入試が始まりましたが、外国につながる生徒、特に日本語指導が必要な生徒の支援はスタートしたばかりと言えます。 もちろん、日本で生まれ、日本語の能力に問題がない場合でも、国籍や外見、文化や価値観の違いで学校や社会から疎外されがちです。本名(民族名)や民族性を尊重し、多文化共生社会を築いていくことが、外国につながる生徒だけでなく、すべての生徒、すべての人がだれ一人として取り残されることのない学校や地域をつくることにつながると考えます。このハンドブックには学校で実践できるそんなヒントをまとめました。 本の内容は実践的なもので、各章のタイトルは以下のとおりです。 第1章 すべての生徒が輝くために ~一人ひとりの人権が尊重される多文化共生社会の実現に向けて~ How toだけの冊子に陥らないように、生徒たちの思いや背景がわかる彼らの作文を紹介したり、コラムを入れたりして、感性に訴え、共感してもらえるよう工夫しました。特に第7章は、ベトナムと韓国のルーツをもつ2人の生徒が、自分たちのルーツとたどって来たルートをインタビューで紹介するストーリーになっています。揺れる思いや誇りを取り戻していく過程が目に浮かぶようです。第7章の最後の箇所を紹介します。執筆者は野崎志帆さん(甲南女子大学教授)です。 名前や見た目で判断せず、学校やクラスには外国にルーツをもつ生徒がいるということを、まず学校現場で生徒に関わる教職員自身が認識する必要がありそうです。多様なルーツをもつ仲間がいることを知らせることは、多文化化しつつある日本で学ぶ全ての生徒にとって大切なことなのではないでしょうか。また、外国にルーツをもつ子どもの側だけに努力と頑張りを求めているだけでいいでしょうか。子どもの成長にストップはかけられません。国籍やルーツがどうあれ、彼らは日本の将来を担う日本社会の一員であるということを理解し、目の前の外国にルーツをもつ子どもに何ができるか、粘り強く考えていきたいものです。 このハンドブック作成の過程で、ことばのこと、相手にわかりやすく伝えるための表現、異なる立場の者どうしが話し合う中で生まれるものなど、気付くことがたくさんありました。高校教員、国語という科目、外国人教育に関わってきた中で、(良しあしは別にして)独りよがりな見方もありました。自分のフィールドから足を踏み出すのは勇気が必要ですし、葛藤も伴うのですが、そんなことを実感する機会になりました。 なんか抽象的で、個人的なことを書き込みました。みなさんがコメントすることも難しいのではないかと思います。ごめんなさい。 最後に表紙と本文中のイラストについて紹介させてください。兵庫県出身の漫画家、ゆととさんが担当してくれました。お父さんが高校教員をされていて、同じく兵庫県在日外国人教育研究協議会のメンバーというご縁です。「うちの娘もイラスト描けますよ」と。趣味の範囲かと思ったら、新進気鋭のプロの漫画家さんでした。 コミック作品(作画担当)として、『恋する男子に星を投げろ!』『樹海村』(KADOKAWA)ほか。ちょうど映画『樹海村』(『犬鳴村』に続く映画)公開前で、そのコミカライズ版の発行に忙しい中、無理難題の注文に応えていただきました。固い印象を与えがちなハンドブックが表紙のレイアウトとゆととさんのイラストで、手に取って開いてみたくなる魅力的なものになったと感謝しています。 では、バトンを次に託します。SODEOKAさん、よろしくお願いします。2021・04・14・N・YAMAMOTO 追記2024・04・06 100days100bookcoversChallengeの投稿記事を 100days 100bookcovers Challenge備忘録 (1日目~10日目) (11日目~20日目) (21日目~30日目) (31日目~40日目) (41日目~50日目) (51日目~60日目)) (61日目~70日目) (71日目~80日目)という形でまとめ始めました。日付にリンク先を貼りましたのでクリックしていただくと備忘録が開きます。 追記 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.04.06 22:20:15
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