ウェス・アンダーソン「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」OSシネマズミント
ウェス・アンダーソンという監督の作品は「犬が島」しか見たことがありません。ストップモーション・アニメとかで、今一のれなかったのでしょうね、なんとなく関心を失っていました。2月の初めころだったでしょうか、久しぶりに帰宅したピーチ姫が「フレンチ・ディスパッチ見たよ。ええよ!」といったのが気になって見に来ました。
ひさしぶりのOSシネマズ・ミントです。見たのはウェス・アンダーソン監督の「フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊」です。なんだかやたら長い題名で、ひょっとしたらオタク映画かなと思いましたが、やっぱりそうでした。(笑)
アニメだとばかり思いこんでいたので、人間が動いていて「おや!?」と思って引き込まれました。
お話はフランスにあるアメリカ向けの雑誌が廃刊になるらしいのですが、最終号の記事の紹介という設定でした。
一つ目が「自転車レポーター」という題で、雑誌社の編集部があるアンニュイ=シュール=ブラゼという、古びた町の、その中でも怪しい地区を自転車に乗った記者サゼラック(オーウェン・ウィルソン)が突撃取材するお話で、まあ、「ふーん、そういう雑誌ですか」という気分で見ていたのですが、以前見た「犬が島」を彷彿とさせる「マンガ的(?)」な街角や建物の絵というかシーンが、「犬が島」のときはめんどくさい気がしたのですが、なぜだか、今回は、やたら面白いのです。
実写(?)の人間とマンガ的なセットも組み合わせですが、自転車という小道具のせいでしょうか、ぴたりとはまっているんですす。
二つ目は「確固たる名作」。めちゃくちゃな殺人事件で懲役50年の刑に服するモーゼス(ベニチオ・デル・トロ)という囚人が絵を描くわけですが、部屋の中央で完全ヌードのモデルをしているシモーヌ(レア・セドゥー)は、じつは女性看守で、その絵を傑作に仕立てていくのが、なんだかインチキ臭い美術商ジュリアン・カダージオ(エイドリアン・ブロディ)というお話でした。
いろいろ、小ネタいっぱいなのですが、モデルのシモーヌのポーズが笑わせました。モーゼスが描いているのは抽象画なのですが、彼女は素っ裸のまま柔軟体操というか、変なポーズで直立しているのです。なんの意味があるのか、全くわからないのですが、シーンとしては実に印象的で、やっぱりなんだかおかしいわけです。
最後は刑務所ごと作品を買い取るとかなんとか、とんでもない大ごとになるのですが、まあ、好きにしてくださいという感じでした。
三つ目が「宣言書の改訂」で、ちょっとお目当てのフランシス・マクドーマンドがルシンダという社会派の記者の役で登場します。まあ、この映画にそろいもそろった有名俳優で、名前と顔が一致するのは彼女だけという興味で、大した意味はありません(笑)。彼女の情事の相手が学生運動のリーダーでティモシー・シャラメという男前の俳優です。
たぶん、1968年ころの5月革命ネタが、チェスの勝負に戯画化されているのですが、ちょっとありがちな気がしました。それより、モーターバイクのヘルメット姿で登場するジュリエット(リナ・クードリ)という学生さんが印象的でした。第1話と似ていて、今度はバイクですが、この監督独特の背景を横切る動きがやはり面白いかったのですね。
4つ目が「警察署長の食事室」というありえないグルメ・ミステリーでした。見ていて感心したというか、気になったのは室内の場面のセットとかが、実に細かく作られていて、今どきのことですからコンピューター・グラフィックで描いただけの絵が組み合わされているのかとも思いましたが、どうも、これは、実際に作って、そこで撮っているんだろうという印象で、そのセットを作らせているウェス・アンダーソンという監督の「オタク」ぶりに感心しました。
人間の俳優が演じる実写映画なのですが、定規で線を引いて書いた四角い小部屋、マンガでいえばコマですが、その一つ一つ中から監督のファンタジックな世界がどんどん湧き出てくるのですが、動きが止まれば、まあ、ぼくのイメージではということなのですが、瞬時に四角い「マンガの世界」に戻るのです。これは初体験でした。このイメージの動きは興味深いですね。
映画は雑誌の記事を描いていましたが、なんだか写真とト書きの多いマンガを読んでいる感覚が軽やかで楽しい作品でした。
一コマ、一コマのシーンにも、印象的なものが多いのですが、一日たってみるとお話を思い出すのに苦労するのも、たぶんこの作品の特徴なのでしょうね。
何はともあれ、ウェス・アンダーソンの名前は完全に覚えました(笑)。拍手!ですね。
それから、わけのわからない絵のモデル、シモーヌさんの笑える演技にも拍手!。いやホント、ご苦労様でした。
帰りに、珍しくパンフレットを買おうと思ったのですが、売り切れていました。ザンネン!皆さん、まあ、人のことは言えませんが、小ネタが気になるようですね。仕方がなにのでミントの写真を貼っておきます。
監督 ウェス・アンダーソン
原案 ウェス・アンダーソン ロマン・コッポラ ヒューゴ・ギネス ジェイソン・シュワルツマン
脚本 ウェス・アンダーソン
撮影 ロバート・イェーマン
美術 アダム・ストックハウゼン
衣装 ミレナ・カノネロ
編集 アンドリュー・ワイスブラム
音楽 アレクサンドル・デスプラ
音楽監修 ランドール・ポスター
キャスト
ビル・マーレイ(アーサー・ハウイッツァー・Jr編集長.)
ティルダ・スウィントン(J・K・L・ベレンセン記者)
フランシス・マクドーマンド(ルシンダ・クレメンツ社会派記者)
ジェフリー・ライト(ローバック・ライト食べ物記者)
オーウェン・ウィルソン(エルブサン・サゼラック自転車の記者)
ベニチオ・デル・トロ(モーゼス・ローゼンターラー天才画家で殺人犯)
エイドリアン・ブロディ(ジュリアン・カダージオ美術商)
レア・セドゥー(シモーヌ女性看守)
ティモシー・シャラメ(ゼフィレッリ・B 学生活動家)
リナ・クードリ(ジュリエット へルメットの女性活動家)
マチュー・アマルリック(アンニュイ警察署長)
スティーブン・パーク(ネスカフィエ警察の料理人)
リーブ・シュレイバー
エリザベス・モス(記者)
ギョーム・ガリエンヌ
エドワード・ノートン(誘拐犯)
ジェイソン・シュワルツマン(エルメス・ジョーンズ風刺漫画家)
ウィレム・デフォー(アバカス囚人)
トニー・レボロリ
ロイス・スミス(美術収集家)
ルパート・フレンド
シアーシャ・ローナン(ショーガール)
ボブ・バラバン(美術商のニックおじさん)
ヘンリー・ウィンクラー(美術商のジョーおじさん)
セシル・ドゥ・フランス
イポリット・ジラルド
アンジェリカ・ヒューストン
2021年・108分・G・アメリカ
原題「The French Dispatch of the Liberty, Kansas Evening Sun」
2022・02・22-no21・OSシネマズno13