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吉田秋生「詩歌川百景(2)」(小学館)
このマンガはヤサイクンのマンガ便ではありません。チッチキ夫人の「お持ち帰り便」です。彼女は本屋の店員さんですから、一応、新しく出た出版物に敏感ということになっています。その上、吉田秋生のファンです。2月の末にテーブルに置いてありました。 2022年2月15日に発売された、吉田秋生「詩歌川百景」(小学館)の第2巻です。第1巻が出たのが2021年の1月ですから、第2巻まで1年以上かかったようですが、連載されている「月刊flowers」の掲載も2021年の1月、5月、9月、2022年の1月と不定期です。まあ、ゆっくりお書きになっていらっしゃるということでしょうか。それにしても待ち遠しいことでした。 舞台は河鹿沢温泉という山間の温泉地で、主人公は母親に捨てられた飯田和樹くんと守くんの兄弟と、和樹くんとは幼馴染の小川妙さんという高校を出たばかりの少女です。守くんはまだ小学生ですが、和樹くんと妙さんは老舗の温泉旅館「あづまや」で働き始めたばかりですが、周りには工務店の跡を継いだ森野剛くんとか、なぜか進学せずに地元の役場で働き始めた林田類君や、その妹で和樹にあこがれている高校生の莉子ちゃんとか、表紙に描かれている若い人たちがいます。 若者たちの群像劇ですが、もちろん、大人たちもいます。中でも、和樹くんに「湯守」の仕事を教えているシゲさん(倉石繁)は、登場する若者たちが子供だった頃からそばにいた人物で、このマンガを底から支えているキャラクターの一人だとぼくは思います。 今回の第2巻の6話「見えない毒」にこんなシーンがありました。 「あづまや」の娘で、東京に出て働いている麻揶子さんが久しぶりに帰郷して風呂に入っています。湯屋の外に立っているシゲさんと子供のころにシゲさんの軽トラックに乗った思い出を、壁越しに語りあっているシーンですが、マンガのセリフから抜き出すと、こんな内容です。 「あの軽トラは雪の海の中を行く小さな船みたいで、 一応マンガのシーンを貼りましたが、このシーンの倉石繁さんのこのセリフだけでも、第2巻は読む価値があると思いました。ただ、小説で同じセリフをしゃべらせても、たぶん、こんな迫力というか、差し迫ったリアリティーは生まれないところがマンガの妙ですね。さすが、吉田秋生という感じです。 まあ、吉田秋生さんのファンのみならず、とりあえず、お読みになってみてください。 「ゆっくりゆっくり傑作が育っている!」 読み終えて、ぼくは、そんなふうに思いました。 実は、今回読んでいて河鹿沢温泉ってどこだろうと気になりました。何となく東北地方か、雪の多い日本海側かなとか思ったりもするですが、調べると、漢字は違うのですが、鰍沢温泉っていう地名は山梨県あたりに実在するのですね。登場人物たちの言葉遣いからして、このあたりかなとか思いましたが、架空の世界は架空の世界で、モデルを推理しても、あんまり意味はないですね。 地名だけじゃなくて、「河童伝説」とか「崇徳院桜」とか、他の推理ネタもあります。で、これはネタふりじゃないかと思ったの崇徳院ですね。 瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末にあはむとぞ思ふ まあ、あまりにも有名な崇徳院の歌ですが、崇徳院桜といえば、こんな歌も浮かんできます。 朝夕に花待つころは思ひ寝の夢のうちにぞ咲きはじめける 花を待っているつもりが、夢の中ではすでに咲き始めているというわけでしょうが、登場人物たちの夢の中にはすでに咲き始めている花の物語の暗示でしょうか。 第3巻以降、夢の中の花の物語が始まりそうです。どうなるのでしょうね、やっぱり1年待つほかないのでしょうか(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.04.01 10:04:10
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