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アスガー・ファルハディ「英雄の証明」シネ・リーブル神戸 アスガー・ファルハディというイランの監督の「英雄の証明」という作品を見ました。先週、キアロスタミという監督の初期の特集に通ったこともあって、「イラン」という国の名前に興味を惹かれてやってきました。
映画の本筋とは、少しずれますがイランという国の刑務所制度に驚きました。服役中に「休暇」があって、この映画の事件はその休暇のあいだに、服役者である男が家族のものとに帰宅した時に起こるという設定でした。日本の刑務所制度について知っているわけではありませんが、服役中に「休暇」はないのではないでしょうか。 で、その事件というのは、服役休暇の男が「拾った金貨を返す」という出来事ですが、テレビ、新聞という既存のマスメディアと、いわゆるSNSメディアの対決による「拾った金貨を返したという事実」の捏造ごっこが、映画のサスペンスの肝でした。 「借金で服役中の人間がせっかく手に入れた金貨を返した!」 というニュースを美談として仰々しく報道するメディア。美談に便乗する、刑務所の偉い人たちや慈善団体の思惑。男に金を貸して騙されたと思っている人たちの怒り。新たに起こる事態を、再び、三度、ニュースにしてはやし立てるメディア。大手メディアの美談を叩くSNSの投稿。だんだん宙に浮いていく男の行動の真実。 メディアを巡る現代社会の断面の一つが鮮やかに映像化され、自分がしたことを見失いない、メディアによって引き起こされていく事態に追い詰められていく男とその恋人、ただでさえスラスラとは表現できない吃音の息子の三人が、ニュースの嵐の中を真実を求めてさまよう巡礼のように描かれていきます。三人は、果たして真実にたどり着くができたのでしょうか。 ファルハディ監督は 「本当の事は吃音でしか語ることができない」 という真理を描こうとして、案外、古典的な結論にたどり着いたとは思いましたが、刑務所に帰っていく男と、それを見送る少年の姿にホッとしたのも事実です。 ニュースの嵐に翻弄されるラヒム・ソルタニ(アミール・ジャディディ)とその息子シアヴァシュ(サレー・カリマイ)に拍手!でした。 余談ですが、「由宇子の天秤」という邦画のことを思い出しました。世間の評判とは裏腹になんとなく納得がいかなかったのですが、現代社会の断面をえぐろうとしているという意味で、よく似た作品だと思いました。 監督 アスガー・ファルハディ 脚本 アスガー・ファルハディ 撮影 アリ・ガーズィ 美術 メーディ・ムサビ 衣装 ネガル・ネマティ 編集 ハイデー・サフィヤリ キャスト アミール・ジャディディ(ラヒム・ソルタニ) サレー・カリマイ(シアヴァシュ:息子) サハル・ゴルデュースト(ファルコンデ:恋人) モーセン・タナバンデ(バーラム:金を貸した男) マルヤム・シャーダイ(マリ) アリレザ・ジャハンディデ(ホセイン) サリナ・ファルハディ(マザニン) フェレシュテ・サドル・アラファイ(ラドミラ婦人) 2021年・127分・G・イラン・フランス合作 原題「A Hero」 2022・04・12-no52・シネ・リーブル神戸no147 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.09.07 22:57:30
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