|
アッバス・キアロスタミ「ホームワーク」元町映画館 「そしてキアロスタミはつづく」という特集企画に毎日通っています。今日、見たのは「ホームワーク」というタイトルのドキュメンタリーでした。
小学校の近くにカメラを据えて、通りかかる子供たちを映しています。カメラは時々子供の表情にズームしていきますが、映し出される子供たちの表情がなんとも言えずいいのです。近寄ってきて「なにをしてるの?」「映画を撮ってるの?」とか声をかけていくグループもあります。学校は男女別なのでしょうか、子供はみんな男の子です。 校庭で朝礼のあいさつとみんなの合唱があります。そのあとシュプレヒコールです。イラン・イラク戦争が終わったばかりで、湾岸戦争が始まったころのイランです。イスラム革命の絶対的な指導者だったホメイニーという人が亡くなったころのイランです。 校庭で子供たちが歌い、大声でシュプレヒコールしているのは、日々の暮らしの道徳の誓い、宗教的指導者への讃え、そして戦勝祈願です。子供たちは元気いっぱいです。 映画は始まったばかりですが、ここまでの映像だけでも驚愕の連続です。シマクマ君はシーア派とかスンニ派とか、何もわかっていないのですが、宗教的な原理主義が讃えられ、その上、隣国との戦争の最中の社会がどんな様相なのかくっきりと形をとっているのがわかります。で、どこかに見てはいけないものを見ているような不安も湧いてきます。「ああ、これは、いつか、来た道⁉」そんな不安です。 子供たちが教室に入り、監督自身が聞き手になって、一人一人の少年たちに「宿題」について尋ね始めます。ここからが、この映画の本番でした。 話しかける大人の声、子供の表情、声、仕草。時々、画面が反転してカメラのレンズとインタビューをしている監督自身の姿も映ります。子供の目線の世界です。 次々と子供たちが登場し、宿題の仕方、成績、テレビのアニメの話、そして罰の経験が聞きだされていきます。 見ていて、どんどん引き込まれていきます。ぼく自身が教員だったことや、子育てが終わったことも関係しているかもしれませんが、子供たちの口から断片的に答えられる生活の様子や、自信、不安、怯えまで、今までに見たドキュメンタリー映画では経験したことのない面白さでした。 両親の文盲率の高さ、兄弟の多さ、一夫多妻の生活、子供の目から見たそれぞれの家族の呼び方や人間関係、疑いなく振るわれる体罰や、小学生に課される宿題の多さという、子供たちが生きている世界のさまざまな様相が子供たちの口を通して語られていくことで、イランという社会が見えてくるのが、まずこの映画の面白さでした。 しかし、映画のラスト近くい登場した一人の少年のふるまいと表情がなんといっても衝撃的でした。上のチラシに写っている少年です。 彼は友だちと一緒でなければカメラの前にいるのはイヤだと言って駄々をこねはじめ、監督の懸命な慰めも及ばず、とうとう号泣してしまうのです。 そこでインタビューは終わるのですが、その泣き顔には、隣国と戦争している宗教的全体主義国家とでもいうべき社会の中で、みんな一緒に元気に歌い、大声で「イラクを倒せ」とシュプレヒコールを上げている少年たちの心の底にあるものの姿がくっきりと大写しにされた印象をぼくは持ちました。 すごい映画です。素っ頓狂な変わり者の少年の面白いドキュメントを装いながら根底には子供たちに押し付けられた世界に対するアンチ・テーゼが息づいています。映画が世界を切り裂く方法であることをキアロスタミは知っているのです。 まず、子どもたちの世界を撮ることで社会に揺さぶりをかけている監督キアロスタミに拍手!、登場する、すべての子供たちに拍手!でした。 監督 アッバス・キアロスタミ 撮影 イラジ・サファヴィ 編集 アッバス・キアロスタミ 音楽 モハマド・レザ・アリゴリ キャスト アッバス・キアロスタミ 1989年・77分・G・イラン 原題「Homework」 日本初公開1995年9月30日 2022・04・05-no48元町映画館no117 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.01.06 22:33:10
コメント(0) | コメントを書く
[映画 トルコ・イラン・カザフスタンあたりの映画監督] カテゴリの最新記事
|