|
カテゴリ:映画 アニメーション
ヨナス・ポヘール・ラスムセン「FLEE」シネ・リーブル神戸 日本の子供向けアニメはほとんど見る気がしないのですが、ヨーロッパとかの外国製のアニメ映画に気づいたときは、できるだけ見ようと思って出かけることにしています。
今回はヨナス・ポヘール・ラスムセンという監督の「FLEE」というデンマークのアニメ映画でした。全く予備知識なしで見ましたが心打たれました。 画面の中央に髭面の青年が座っていて、語り始めます。彼の名前はアミン・ナワビ、話を聞いているのは、金髪の白人インタビュアーでした。 映画はアミンという男性の回想と告白を、一部には実写も挿入されますが、おおむねアニメの画像として描いていました。 1980年代のアフガニスタンに生まれた彼が、2010年代の「今」、デンマークで学者として暮らすようになるまでを語った「語り」がドキュメントされています。 見ながら1980年代以降のアフガニスタンのことをぼんやり思い浮かべていました。ソビエトのアフガン侵攻が1979年で、撤退が1989年ぐらいだったと思いますが、その当時から、イスラム原理主義に対するソビエト、アメリカによる戦場化が現代まで続いている国だったはずです。 少年だったアミン・ナワビが、タリバン政権による父親の連行と行方不明を機に、兄と母とともに。スウェーデンに住む長兄の援助を頼りに故郷アフガニスタンの首都カブールからこっそりと国境を超え、ソビエトで不法入国の難民として隠れ棲み始めるのが1980年代の終わり、ソビエト撤退の直後だったようです。 長兄の援助による逃走資金の不足のため、同行する家族から選ばれた彼は、たった一人でデンマークまでたどりつき、そこでようやく亡命が認められ、やがてこの映画を作ることになる少年と、通い始めた学校で出会います。二人とも10代です。 そこまでの回想で、充分見るに値する内容でした。例えば、ボクなんかが「難民」とか「亡命」とかという言葉を、いかに「他人事」としてしか受け取っていないか、痛感させられるアミン少年の命がけの体験が淡々と語られています。 しかし、この映画に「Free」ではなく「Flee」という題名がつけられている理由は、もう一つありました。アミン・ナワビが、自らをゲイであるとカミングアウトしていることです。彼がゲイである自分を自覚したのは、成人したのちのようですが、祖国アフガニスタンから、今、この時も、「Flee=逃亡」し続けなければならない理由がそこにあること、この映画がアニメとして、登場人物をアバター化して隠さなければならない社会はアフガニスタンだけでなく、ぼくたちが平和だと思って暮らしている現代社会であることを、静かに訴えていると思いました。 「他人事」として知らん顔をするのは「抑圧」や「差別」が再生産され続けることを支えているのかもしれないことを気づかせてくれる作品でした。 淡々と語り続けるアミン・ナワビに拍手!でした。加えて、素朴で美しい絵で、心を打つアニメーションを作ったヨナス・ポヘール・ラスムセン監督に拍手でした。 監督 ヨナス・ポヘール・ラスムセン 脚本 ヨナス・ポヘール・ラスムセン アミン・ナワビ アニメーション監督 ケネス・ラデケア アートディレクター ジェス・ニコルズ 編集 ヤヌス・ビレスコフ・ヤンセン 音楽 ウノ・ヘルマーソン 2021年・89分・G・デンマーク・ スウェーデン・ ノルウェー・ フランス合作 原題「Flee」 2022・06・13-no80シネ・リーブル神戸no154 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.08.02 10:40:56
コメント(0) | コメントを書く
[映画 アニメーション] カテゴリの最新記事
|