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シャンタル・アケルマン
「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」 シネマ神戸 なんか、すごい映画を見ました。シャンタル・アケルマンという監督の「ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地」という長い題名の作品です。シャンタル・アケルマン映画祭という特集を神戸では新開地の名画座、シネマ神戸という映画館がやっていました。1975年に公開された映画で、監督のシャンタル・アケルマンという女性は1950年生まれだそうですから、25歳の時の作品です。 まあ、題を読めばおわかりでしょうが、ブリュッセルといえば、ベルギーの首都ですが、その町に住むジャンヌ・ディエルマンという中年の女性の三日間の生活を密着撮影で撮った、あたかもドキュメンタリーであるかの映像が延々と200分続く作品でした。 一日目が、朝からだったかどうか、ちょっと思い出せませんが、二日目は目覚めてから寝るまで、丸一日彼女の生活を映し続けて、三日目はアクシデントが起こって、台所(多分)に座りこんでいるシーンでしたが、そこで映画が終わりましたから、ほぼ48時間の生活シーンが3時間続いたわけです。 カメラが撮り続けるシーンは彼女のアパートの部屋、エレベーター、廊下、買い物に出かけた通りとお店、散歩に出かける暗い夜道です。 部屋の中は台所、食卓のある居間(息子の勉強部屋兼寝室)、彼女の寝室(兼仕事場)、洗面所と風呂場、玄関、玄関からそれぞれの部屋をつなぐ廊下です。 彼女は高校生(多分)の息子と二人で暮らしているシングルマザーで、仕事は売春とベビー・シッター(誰かがお出かけのあいだ赤ん坊を預かる)のようです。 売春は、息子が学校に行っている午後、彼女の寝室に客を迎え入れていました。仕事に要する時間は、台所で、夕食用のジャガイモを湯掻く時間と同じようです。客は帰りに現金を支払い、彼女はその金を食卓兼用のテーブルにおいてある蓋付きの大きな陶器のスープボウルに放り込むと、風呂に入り首筋から始めて、入念に体を洗い、そのあと風呂桶を洗います。で、部屋のベッドカヴァーのほこりを払い窓を開けて換気し、台所に戻り茹であがったジャガイモを火からおろします。 二日目には、ジャガイモが焦げたらしく、近所のお店にジャガイモを買いに行って、そのあと、ジャガイモを剥きなおしているのがポスターの写真のこのシーンでした。 いつもは焦げ付かないジャガイモが、仕事の成り行きのせいか、焦げ付いて食べられなくなったあたりから、何かが変わります。日常生活のルーティーンがズレたということなのでしょうか?なにが、どう変わったのか何もわかりませんが、ひたすら寝ボケた気分で見ている眼にも彼女の雰囲気の変化はわかります。何も言わず、ただ、機嫌が悪いことは確かな同居人を見ているような気分です。 そして、破局の三日目でした。この日、預かった赤ん坊が泣き叫び、何とかあやそうとするジャンヌの、にもかかわらず、無表情なシーンがしばらく続き、「これはヤバイ!」と心配しましたが、赤ん坊は無事でした。しかし、そのあと、ことが終わってもグズグズしている客に対して危惧は現実化してしまいます。 血まみれの姿で暗い台所のテーブルに座り込むジャンヌはなにを考えていたのでしょう?映画は終わりましたが、このラストシーンは記憶に残りますね。 繰り返し映し出されるエレベーターの二重の鉄格子、決して窓やドアから外を映そうとしないカメラワーク、靴音やドアの軋り、道路の騒音、音だけは耳障りなまで響かせる音響、映画は意図的に閉じ込められている「人間」あるいは「女性」の内側を描こうとしているようでした。 年頃の息子との会話とか、頻りに髪の毛を気にする仕草とか、部屋でも履かれているハイヒールとか、不思議な食事の光景とか、折り畳みベッド、何故か一番目立つ処に置かれたスープボウル、送られてきたピンクの寝巻と、まあ、気にかかる細部が山盛りでしたが、一番気になったのは「時間」と「空間」の独特さでした。3時間を超える長い映画でしたがジャガイモを剥く手つきにじっと見入らせてしまうのがこの作品のすごさだと思いました。 ジャンヌを演じていたデルフィーヌ・セイリグには最近、別の映画(ルイス・ブニュエル「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」)で出会った人ですが、全く別人で気づきませんでしたが、彼女のやる気のないジャガイモ剥きに拍手!でした。 変化のない日常のルーティーンを描きながら、細部のゆらぎによってでしょうか、視覚と聴覚にかすかにうったえるイメージの変化から破局を予感させる、眠いのに寝ていられない、「いらだち」とも「不安」とも、いえるようでいえないムードで引き付けていく監督シャンタル・アケルマンの方法に拍手!でした。 監督 シャンタル・アケルマン 脚本 シャンタル・アケルマン 撮影 バベット・マンゴルト キャスト デルフィーヌ・セイリグ ジャン・ドゥコルト ジャック・ドニオル=バルクローズ 1975年・200分・ベルギー・フランス合作 原題「Jeanne Dielman, 23, quai du commerce, 1080 Bruxelles」 2022・07・13・no90・シネマ神戸no9 追記2022・07・22 これは、きっとチッチキ夫人が喜ぶに違いないと思ってすすめました。 「何よあれ!わたし、ああいう映画イヤ!音はやたらうるさいし、家の中でもハイヒールだし、お風呂洗うけど、ちっとも洗濯しないし、お皿は翌朝だし、ジャガイモ無くなっているのが袋覗かないとわからないし、あれで、赤ちゃん手にかけてたらサイテーだったわよ。」 参りましたね、帰って来るや、えらい剣幕で、酷評でした。反論するなんて、もちろん無理です。映画って、やっぱり、見る人それぞれなのでした(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.07.04 21:54:19
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