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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
絲山秋子「まっとうな人生」(河出書房新社) 絲山秋子という作家が、ぼくは案外好きなのですが、彼女の最新作「まっとうな人生」(河出書房新社)という作品を読んで、ひさしぶりに「そうだよな。」と納得しました。 もう十年以上も昔のことですが、彼女の「逃亡くそたわけ」(講談社文庫)という作品を読んだことがあります。その後、映画化されたりしたらしいのですが見ていません。小説は「なごやん」と「花ちゃん」という、二十代の男女の二人組が入院していた博多の精神病院を抜け出して九州縦断の逃避行をする話で、なんだかとても哀しくて痛快だったと記憶している作品でした。
この本の見開きページにある「まっとうな人生」の舞台のイラストです。なぜ、そうなったのかよく分かりませんが、あれから、十数年経って「花ちゃん」は富山で暮らしていますというのがこの作品の始まりでした。 「よそ者のことを、富山では「たびのひと」と言う。何十年住んでいても出身が違うだけでそう言う。大学から関東や関西へ行って有名人になった人が、いつまでも地元でちやほやされるのと同じしくみだ。よそ者、ということを考えない日はなかった。(P10) これが、まあ、ほとんど書き出しですが、九州から富山に移住(?)して、今ではアキオちゃんと呼ぶ配偶者と、10歳になる佳音ちゃんという女の子と三人で、まあ、そこそこ平和に暮らしているお話です。 まあまあ元気、というのは一応通院しながら病気をコントロールしているということで、二年に一度くらいは再発もある。 というわけで、身体的、精神的不調と付き合いながら暮らしている「花ちゃん」の独り言小説ですが、あの時の「なごやん」もまた、なんと富山に暮らしているという偶然の再会で、作品は急展開するかと思いきや、別に何も起こりません。 干していた寝袋を回収に行くと、海を背にした佳音が両手をひらいて、腕を広げた。 作品は2019年4月にはじまった花ちゃんの日々の独り言の記録ですが、2021年10月、コロナ騒ぎのなか、家族でキャンプにやってきた海岸での花ちゃんと佳音ちゃんのこの会話で記録は終えられます。 読み終えたシマクマ君は、ベランダに出て掌をお日様にかざします。で、「そうだよな」という納得が掌に広がるのを感じます。他人事だと思っていたコロナ騒動の当事者を経験して、ようやく、外に出てもよくなった朝の出来事でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.09.03 12:45:36
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