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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2022.11.16
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​​​セルゲイ・ロズニツァ「バビ・ヤール」シアター・セブン 今日は、大阪十三シアター・セブンにやってきました。10月の半ばに、元町映画館でやっていたプログラムなのですが見損ねていました。「ドンバス」セルゲイ・ロズニツァ監督「バビ・ヤール」です。​​​
 「国葬」、「アウステルリッツ」以来、この人の作品は見逃したくないと思っていましたが、元町映画館の上映を見過ごしていました。というわけで、コロナ騒動以来初めての県境越えの十三でした。マア、阪急神戸線の特急に乗るだけのことですが(笑)。
 で、映画ですが、見ごたえというか、この監督の作品は、ぼくにとってはいつもそうなのですが、歴史の実相を突き付けられる体験でした。
​​​​ 1941年のウクライナ(当時、ソビエト連邦)のキエフを占領したナチス・ドイツ「バビ・ヤール渓谷」というところで行ったユダヤ人大量虐殺、いわゆるホロ・コーストの実態を歴史資料として残されていた記録フィルムを編集することで、新たに「告発」したドキュメンタリーでした。​​​​
 映画の製作技術者の中にカメラマンはいません。映像はすべて、当時の記録フィルムのようでした。
​​ナチス・ドイツ「独ソ不可侵条約」を破棄してソビエト・ロシアとの戦争を始めたのは1941年6月ですが、9月19日にはキエフを占領します。キエフの住民たちはナチス・ドイツを歓迎し、スターリンの肖像を破っていきます。​​
 そのあたりから、この映画は始まりました。画面には、日付と場所、場合によっては出来事の名称が字幕として出てきますが、ナレーションの類は一切ありません。
 例えば、武装解除された大量の兵士や、荷物を持った市民の行列のシーンが、繰り返し画面には出てきますが、それがどちらの兵士なのか、ユダヤ人なのか、軍装や衣類のようすから類推するしかない映画です。
​​​ もう一度、例えばですが、9月24日のシーンで多数の市民を巻き込む大規模な爆発が発生するのですが、ソビエトによる反攻によるものなのか、何かの陰謀なのか、見ているぼくにはわかりません。実際はソ連秘密警察キエフ撤退前に仕掛けた爆弾を遠隔操作で爆破したものだったらしいのですが、その事件を口実にして、翌日、ナチス・ドイツの占領軍がキエフに住むユダヤ人全員の殲滅を決定する経緯を、映し出される映像から、何とか読み取って呆然とするばかりです。​​​
​​ 字幕によれば、占領軍は9月29日・30日のわずか2日間で、キエフ北西部バビ・ヤール渓谷3万3771名ユダヤ人を射殺したらしいのですが、映像にはチラシにある死体の山の間をナチス・ドイツ軍の軍装の兵士が歩き回っているシーンがあるだけでした。​​
​​ 映画の後半は、ソビエトによるキエフ奪還と、虐殺事件の裁判の過程、事件にかかわった犯罪者の絞首刑のシーンがメインでした。その中に十二人の人間が、大群衆の前で、実際に公開処刑されるシーンが延々と映し出される映像がありますが、その状況を、今、日本の映画館で見ているということこそがぼくにはショックでした。​​
​ 裁判の中で、ナチスの傀儡政権が虐殺をいかに隠そうとしたかが、例えば、現場の目撃者や作業員も、口封じのために射殺していたことなどが証言されることによって暴かれていましたが、それは、ぼくにとっては、ソビエト・ロシアの解放軍政権による「正義(?)」の、見せしめ処刑のありさまの異常さと好対照なのですが、結局、同じコインの裏表ではないかということを、終始、無言のセルゲイ・ロズニツァは語っていたのではないでしょうか。​​ 映画の初めの、ナチス侵攻を歓迎するコサックの民族衣装の人々のふるまいを、ウクライナにおける親ナチス的民族感情のあらわれのように、2022年現在にリンクさせて語る節もあるようですが、1930年代スターリンによる農業政策の失敗を勘定に入れて考えないと、見誤るのではないでしょうか。​​
​​​ ヒトラースターリンという二人の独裁者の政権のはざまに位置した、1940年代のウクライナという「場所」で生きる民衆の姿を、当時のフィルムのまま差し出しているセルゲイ・ロズニツァの意図は、まず、「これを見て考え始めてください」という、まっとうな歴史認識への誘いなのですが、何よりも、あらゆる「全体主義」に対するラジカルな批判が、その根底にあることは間違いないのではないでしょうか。​​​
​​​ マア、それにしても、「ほんとうのこと」を、解説もナレーションもなしで見るというのは、疲れますね。ともあれ、セルゲイ・ロズニツァに、やっぱり拍手!でした。
 チラシは元町映画館での上映予告の時のものですが、見たのは十三シアター・セブンでした。​​​

監督 セルゲイ・ロズニツァ
製作 セルゲイ・ロズニツァ  マリア・シュストバ
脚本 セルゲイ・ロズニツァ
編集 セルゲイ・ロズニツァ  トマシュ・ボルスキ  
ダニエリュス・コカナウスキス
2021年・121分・オランダ・ウクライナ合作
原題「Babi Yar. Context」
2022・11・14-no128・シアター・セブン

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最終更新日  2023.12.19 21:25:41
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