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カテゴリ:映画 ウクライナ・リトアニアの監督
セルゲイ・ロズニツァ「ミスター・ランズベルギス」元町映画館 「ちょっと、これはすごい!」という映画と出会いました。場所は2022年の師走の始まりの元町映画館です。監督は、すでに何本か見ていて、すっかり魅せられているセルゲイ・ロズニツァです。作品は「ミスター・ランズベルギス」、248分の大作ドキュメンタリーです。
マア、4時間を超える長尺というところが、とりあえず、まず、「ちょっと、これはすごい!」わけで、その上、セルゲイ・ロズニツァが撮っているというのも、ボクにとっては、もう、それだけで「スゴイ!」のですから、何を大げさに騒いでいるのかということですが、やっぱり、騒いでしまいます(笑)。 この映画の凄さは、このドキュメンタリーの主人公であるランズベルギスという人物の行動と考え方の根幹であり、この作品の舞台であるリトアニアという国の独立のプロセスの中で実践された「非暴力という思想の可能性」が見事に活写されていたところです。 映画は、今となっては、元リトアニア共和国最高会議議長であったビータウタス・ランズベルギスという老人が、彼の祖父が建てたというサマー・ハウスの庭のベンチで、30年前の思い出を語りはじめるシーンで始まり、語り終えたシーンで終わります。 一人の政治家の、3年間の活動を、いわゆる、アーカイブ・フィルムで描き出していく、これまで見たセルゲイ・ロズニツァの作品とは、また、ちがった手法で作られていますが、作品が焦点化していくのはリトアニアの独立運動の「非暴力」性と、当時、ノーベル平和賞を授与されたこともあって、世界中にファンがいたミハイル・ゴルバチョフの、現実には、実に「暴力的」だった政治手法でした。 巨大な連合国家ソビエト連邦の、絶対的権力者であったゴルバチョフが、まず、国境封鎖による経済統制という暴力を行使し、次に、戦車、装甲車で武装したソビエト軍を駐留させ、挙句の果ては実弾を発砲しながらの脅し、挑発を繰り返しながら、リトアニア国内のソビエト共産党支持者を煽るという手法は、つい最近も、どこかの国がどこかの国に対する手法として繰り返していましたが、ランズベルギスという指導者が、あくまでも論理で抵抗し、国際世論を味方につけ、独立を勝ち取っていくやり方は、司馬遼太郎がいたら小説の主人公にしそうなおもしろさですが、最後の最後まで「銃をとれ!」と叫ばなかったところに感嘆しました。 30代のボクでしたら、リトアニアの大群衆が国歌を歌い、駐留軍を包囲し、やがて、独立を勝ち取っていくシーンには、感激の涙を流したに違いないのですが、今、現在の率直な感想の中には、涙が流れるような情感はあまりありません。 いずれにしても、「国家」とか「民族」、あるいは「宗教」とかいう枠組み、まあ、共同幻想を前提とした改革とか民主化、あるいは革命には、再び「国家」という共同幻想による「人間」個々の個的幻想に対する抑圧や蔑視がつきものであることが、この20年の現代史が教えてくれたことで、そのあたりに対しての期待感は、今のぼくには、あまりありません。 セルゲイ・ロズニツァの凄さは、そこのところを見通しながら、「非暴力」の可能性を見事に描いていると感じさせるところに表れていて、ここまでの作品に通底する彼の世界認識のありようが、ようやく、ニブイ、ボクなどでもわかりはじめてきたようで、そこのところにに唸りました。 現在のリトアニアの政治情勢についてはまったく知りませんが、ウクライナへのロシアの侵略という世界情勢下で発想されたに違いないこの作品は、もっと評判になってもいいと思います。憲法9条という最強理念を持ちながら、敵基地攻撃などということを、メディアもこぞって「いいね!」の話題にしていますが、「非暴力」の論理をこそ追求することが求められていると思うのですが・・・・。 長い長いインタビューに、ユーモアたっぷりで語り続けたビータウタス・ランズベルギスに、こころから拍手!です。 いよ、いよ、その世界認識を鮮やかに描き始めたセルゲイ・ロズニツァ監督にも、当然、大きな拍手!ですね。ほんと、この人の作品からは目が離せません。次は「新生ロシア1991」だそうです。 監督 セルゲイ・ロズニツァ 製作 ウリャーナ・キム 共同製作 マリア・シュストバ セルゲイ・ロズニツァ 脚本 ビータウタス・ランズベルギス セルゲイ・ロズニツァ 編集 ダニエリュス・コカナウスキス キャスト ビータウタス・ランズベルギス 2021年製作・248分・リトアニア・オランダ合作 原題「Mr. Landsbergis」 2022・12・05-no134・元町映画館no150 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.19 21:24:49
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