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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2022.12.16
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100days100bookcovers no84 84日目
​山下和美「天才柳澤教授の生活1~8」(講談社文庫)​
 ええっと、まず、DEGUTIさんが紹介された「奇跡の本屋をつくりたい」(ミシマ社)を読みました。初めて手にとったにもかかわらず、とても懐かしい気分で読み終えました。懐かしかったのは「中学生はこれを読め!」というキャッチ・コピーでした。
 教員生活の、最後の数年間、ぼくは垂水の海を見下ろす丘の上の学校で、たった一人の図書館長でした。一応、古い学校でしたから蔵書は5万冊を超えていましたし、書庫や閲覧室もスペースとしては立派な図書館でしたが、館内は古色蒼然として、あらゆるところに埃が積もっていました。ほぼ、1教室分あった書庫には移動式の書架がぎっちり設置されていて、初めて目にした時には天にも昇る気持ちでしたが、書庫も一般開架の棚も、並べられていた本たちは埃まみれで、最初の仕事はお掃除でした。
 どうせ、一冊ずつ拭くわけですから、ついでです。文庫、新書は出版社を無視して著者別に並べ替え、書庫に眠っていた古い本も拭いてみると見栄えも変わったので、開架に並べることにして、そうなったら閲覧室のポップも変えて・・・・。
 司書の方も助手の方もいない一人でしたが、ヘンコで嫌われ者だった校務員さんが、なぜか全面的にバックアップしてくれて、館内には、校務員さん手作りの、新しい陳列棚、廊下に面した壁にはズラーと掲示板が取り付けられて、あれよあれよという間のリニューアルでした。古い本でも新しく並べ替えると目に付くらしく、生徒たちも棚をのぞき込んであれこれ言うようになってきました。お金がないので新刊の人気本で釣ることはできません。目先を変えるにはどうするかが問題です。
 で、やったことは二つでした。一つは図書館前の掲示板に、手製のレビュー・チラシを張りまくることです。たとえば「高校生はこれを読め!」「センターで来年出る!」とかのキャッチ・コピーをつけて、とにかく、毎週、目新しくして、掲示板を埋めることです。
 二つ目「夏休みの百冊!」と題した「読書案内」の全校配布です。今、読み直してみれば結構面白いのですが、記事はこんな感じです。サワリだけね(笑)
​​《ブンガクの最前線にいるのは村上春樹か、村上龍か?》
今、テポドンで話題の北朝鮮から工作員が九州に上陸、ソフトバンク・ヤフードームを爆破するというテロ事件を引き起こす。さて、この事件に日本の政府は対応できるのだろうか。という問題提起小説とも読める作品が(1)村上龍「半島を出よ(上・下)」(幻冬社文庫)。実はこの小説の面白さは主人公的活躍をする不良少年や、ホームレスのオジさんたちなのだと思う。村上龍は少年を書くと、劇画的だけれど素直に読める。映画化された?(2)「69」(集英社文庫)も、(3)「希望の国のエクソダス」(文春文庫)もそこが共通している。どれも話がマンガ的だから読み出したら止まらない。でも、時代の事象を追い続ける龍のスタイルも、最近では少々息切れかな?
 一方、(4)「1Q84(上・下)」(新潮社文庫)で話題沸騰の村上春樹の前作が(5)「海辺のカフカ(上下)」(新潮文庫)。太平洋戦争の時に少年で、小説の現在では、超能力老人、例えば猫語が話せる、ナカタさんをめぐる事件と、家出少年であるカフカが遭遇する事件が交互に描かれる。ただ、ココから春樹ファンになるのは少々無理があるかも、という出来栄えかもね。村上春樹(6)「風の歌を聴け」(講談社文庫)で登場したのがもう30年前。最近、映画化されるというので復刊されている(7)「ノルウェーの森」(講談社文庫)などの大ヒット作品がたくさんある。海外でも評価が高いというのも、この人の特徴。もっとも批評家の小森陽一(8)「村上春樹論」(平凡社新書)で痛烈に批判していて、結構面白い。既に春樹ファンを自認する人にはこの批評を薦める。でもやっぱり世界的最前線は春樹君かな?​(書名の前のカッコの数字が紹介の通算数)​
​​
​ まあ、こんふうな記事で12ページの冊子を作って全校配布です。紹介冊数は200冊を超えることになって、レビューもたいへんでした。1年目は1200部の印刷も製本も一人でやったのですが、元気もあったのでしょうが、好きだったのでしょうね、よくやりましたね。
 「奇跡の本屋をつくりたい」久住さんは、売らなきゃあ話にならなかったのですが、高校生や中学生に、「朝の10分間読書」なんていう鬱陶しい強制ではなくて、本に関心を持っていただき、読んでいただくのはなかなか大変でした。買っていただくなんて、本当に大変だったでしょうね。
 まあ、長々と思い出話に浸りましたが、まあ、そこはご容赦いただくとして、肝心のバトンです。
山下和美「天才柳澤教授の生活」(講談社文庫・全8巻)です。付け筋は「北海道」「大学教授」です。最近、出会った新しいマンガです。 2001年の新刊当時は、当時の松本幸四郎主演でTVドラマ化もされたらしい人気漫画だったようなのですが、今となっては古いマンガです。芸能情報に詳しくていらっしゃるSODEOKAさんとか、よくご存じなのではないかと思いますが、テレビドラマも、山下和美という女流マンガ家も、その作品も知らなかったシマクマ君には新しいマンガでした。
 作者の​山下和美​が映画監督の​是枝裕和​​​「世界といまを考える 3」(PHP文庫)​​という対談集の中で対談していて、そこで「実家には岩波文庫ばかり並んでいる書棚があった。」という話をしていて興味を持ちました。
 早速、「ランド」とか「不思議な少年」とかを読み始めたのですが、今一つノリきれないまま、この「天才柳澤教授の生活」を手にとって納得しました。
 「ランド」「不思議な少年」も、マンガ特有の現実離れは、ちょっとSF風の、あるいは民俗学風のネタで展開して、面白いことは面白いのですが、めんどくさいなあという印象だったのですが、「天才柳澤教授の生活」は大学教授であるという主人公が、まじめな学究で、とてもハンサムなロマンス・グレーであるというただそのことだけで、「マンガ的現実離れ」が素直に生まれてしまって、家庭での夫婦生活から親子関係、仕事場での人間関係、街角で会う庶民との社会関係、みんなズレちゃうんですよね。声を出してというほどではありませんが、たしかに笑えます。
 山下和美さんのお父さんは、実際に小樽商科大学の経済学の大学教授だったそうで、モデルは、とりあえずお父さんらしいのですが、「そりゃあ、まあ、岩波文庫の棚が玄関先に鎮座してるのももっともだ。」という納得で始まって、「だいたい、今も昔もよくは知りませんが、昔風の大学教授などという人種の家庭生活の現場を『マンガ化』して、少々のデフォルメさえ加えればこうなるわな。」という、もう一度の納得です。
 まあ、内容は読んでいただくほかありません。好き嫌いがわかれる気もします。しみじみとペーソスを感じる、ぼくのような人もいるかもしれませんし、「いやあ、これ、ダルイやん。」という、我が家にマンガを運んでくれるヤサイクンのような感じ方もあるでしょう。ダルイことは否定しませんが、悪くないというのがぼくの評価です。ちなみに2003年の講談社漫画賞なんですね、同じ年の少女マンガは羽海野チカ「ハチミツとクローバー」だったようです。ウーン、こっちは知っていたのですが。
というわけで、YAMAMOTOさんよろしくね。​​​​​​​​​​​​​​​​

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最終更新日  2023.08.30 08:02:06
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