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カテゴリ:映画 ウクライナ・リトアニアの監督
セルゲイ・ロズニツァ「新生ロシア1991」元町映画館
寒かった2023年2月の最終日、28日は小春日和でした。一月から二月の間、マフラー、二枚着込んだセーター、オバー・ズボンの重装備でスーパー・カブ号でしたが、ようやく脱皮できました。で、フワフワ、ちょっと春の気分で見たのがセルゲイ・ロズニツァの「新生ロシア1991」でした。 率直に言って、難解でした。理由ははっきりしています。 一つは、この監督のいつものことなのですが、「いつ?」は出てくるのですが「どこで?」がわからないのです。観ながら徐々にですが、映像のほとんどが、ロシアの大統領府の周辺だということがわかってくるのですが、だから映画の始まりではレニングラード、終わりではサンクト・ペテルブルグというわけだったことはわかったわけですが、今度は、いったい何が起こっているのかがわかりません。 二つ目はゴルバチョフが始めたペレストロイカという、ソビエト連邦の改革が、1991年、8月19日に勃発した共産党保守派のクーデターとその失敗によって、ソビエト連邦の体制内改革を目指した、連邦の大統領だったゴルバチョフが、実質、失脚し、ロシア共和国の大統領だったエリツィンが実権を握り、ソビエト連邦の共産党体制そのもの崩壊、国家制度の変革へと移行する、激動の4日間について、ぼく自身が忘れてしまっている、あるいは、あまりにも知らないことが理由です。 フィルム上で起こっていることが、20世紀の世界史において、どんなに過小に評価してもベスト(?)10に入るはずの大事件なのですが、見ている当人には、まあ、何が起こっているのかわからいというトンマな客だったというわけでした。 ただ、トンマな客がトンマなりに興奮したことといえば、エリツィンが権力を掌握した大統領府から、逃げるように車で去る数名の男の中に、あの、プーチンがいたことに気づいたことでした。 この政変の中で、プーチンをはじめとしたKGBの人間たちがどんな立場で何をしていたのか、これまた、ぼくは知りませんが、広場にバリケードを築き、反クーデターを叫び、改革の、さらなる前進を歌っている民衆たちの味方であったはずがないと、まあ、勝手に思い込んでいるわけですが、あれから30年、ロシア共和国の大統領職を手に入れたプーチンの所業を思い浮かべれば、彼の姿をこの映画に挿入したセルゲイ・ロズニツァの意図がどこにあるのか想像がつこうというものでした。 そういえば、この映画のBGMは「白鳥の湖」なのですが、実は、このクーデターの間中、ニュース報道を禁じられたモスクワの公共ラジオ放送がずっとこの曲をかけていたということに基づく演出のようですが、結局、改革派が勝ったはずの「新生ロシア」の通奏音は「白鳥の湖」だったということですね。もちろん、呪いをかけられているのは自由を叫んだ「民衆」か、あるいは「民主主義」に決まっていますね。 まあ、それにしてもセルゲイ・ロズニツァが何を描こうとしているのかが、ここにきてようやく見えてきた気がします。この監督のアーカイブ・フィルム編集の意図の一つは「民衆」にかけられた「呪い」の提示ですね。どこまでいっても真の自由とは出会えない悲劇といってもいいかもしれません。何はともあれセルゲイ・ロズニツァに拍手!でした。 監督 セルゲイ・ロズニツァ 製作 セルゲイ・ロズニツァ 編集 セルゲイ・ロズニツァ ダニエリュス・コカナウスキス 2015年・70分・ベルギー・オランダ合作 原題「The Event」 2023・02・28-no029・元町映画館no165 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.19 21:24:28
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