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カテゴリ:読書案内「丸谷才一・和田誠・池澤夏樹」
菅野昭正編「書物の達人 丸谷才一」(集英社新書) 大文学者とかいうのは、なんか気が引けます。まあ、最後の文人とでも呼ぶのがふさわしい丸谷才一ですが、2012年に亡くなった翌年の2013年、世田谷文学館というところで「書物の達人 丸谷才一」と題されて開催された「連続講演会」が書籍化されて2014年に出版されたのがこの本「書物の達人 丸谷才一」(集英社新書)です。
市民図書館の新刊の棚にありましたが、新刊ではありません。 目次この目次によれば、講演者が5人ですが、実はフランス文学の菅野昭正の「はじめに」はかなり気合の入った丸谷才一論です。特に、初期の代表作「エホバの顔を避けて」、「笹まくら」という二つの作品を俎上にあげ、中期の「たった一人の反乱」以後への、丸谷流モダニズム小説の変遷をその英国文学体験から語り始める展開は、なかなか読みごたえを感じました。 残りの五人の論者も、それぞれ、「戦争体験と永井荷風」(川本三郎)、「新聞書評と英国文学」(湯川豊)、「国学院と折口信夫」(岡野弘彦)、「モダニズムと官能論」(鹿島茂)、「中村勘三郎と歌舞伎」(関容子)という具合に焦点化した視点で語られていて、丸谷才一という多面体が、5人の論者によって多面的なエピソードが持ち出され、ほぼ全面展開している様相で語られていて飽きません。 まあ、そういう奇特な方がいるのかいないのかはわかりませんが、文人丸谷才一を相手に「遊び時間」を過ごしてみようかという方には、うってつけの入門書かもしれません。 まあ、ボクにとってはですが、これは!というようなものすごい話がいくつかあったのですが、その中から一つ、案内してみます。 第三章の講演者、岡野弘彦という方のお話の中からです。岡野弘彦と言えば、三重県だったかの神社の跡取りで、折口信夫の弟子です。で、國學院大學で丸谷才一とは同僚だった歌人です。その岡野弘彦が「忠臣蔵とは何か」(講談社文芸文庫)という丸谷才一の評論を取り上げて、日本人の信仰の形について語っている一節があるのですが、そこでこんなことをおっしゃっています。 これを言うのに少し勇気がいるけれども、丸谷さんをしのぶ会で柔(やわ)なことを言ったら、丸谷さんはきっと怒るだろう。丸谷さんの魂もまだ鎮まってないでしょうから(笑)。大事な問題だから言っておきます。ちょっと、トンボ切れなのですが、近代日本という国家の成立過程で、見捨てられた荒魂に対する「魂鎮め」、「御霊信仰」をめぐって、「王」として天皇について、穏やかですが、本質的にはラジカルなことをおっしゃっていますね。国家における祭祀の王の役割の意味は、まあ、現代ではタブー視されていて、平成帝の戦跡や災害地訪問は「やさしさ」のエピソード・ニュースとしてしか扱われないわけですが、さすが、折口信夫の一番弟子という視点ですね。 まあ、こういう調子で、最後まで飽きさせません。いかがでしょう、古本屋さんの100円均一の平台でも時々見かけます。文人丸谷才一、この本あたりから「遊び時間」を始めてみませんか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.07.19 01:22:32
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