|
カテゴリ:読書案内「丸谷才一・和田誠・池澤夏樹」
丸谷才一「猫のつもりが虎」(文春文庫) 表紙の絵が、なかなかいいとお思いになりませんか?丸谷才一のエッセイ集、「猫のつもりが虎」(文春文庫)ですが、もともとは「ジャパン・アヴェニュー」という、どこかの会社の広告誌に連載されていたエッセイを、マガジンハウスが2004年に書籍化した本で、文春文庫になったのは2009年ですね。
表紙をご覧になれば、すぐにお気づきだと思いますが、1章で1話、章ごとに和田誠のイラストの表紙絵と挿絵があって、400字の原稿用紙にして12枚程度、5000字弱の一話完結のエッセイが、全部で18作収められています。イラスト一つに原稿用紙6枚という釣り合いのようですが、これが、某所のお供にぴったりなんですね(笑)。 で、表紙は、本書の前口上というか、はじめにに当たるエッセイの挿絵です。 虎を描いて猫に堕す、とおぼえてゐたけれど、本当は、虎を描いてお犬に類す、らしい。とにかく絵が下手なことの喩へ。でもそれなら、ネコを描いたのに虎に見えたら、これは名人なのか。やはり下手なんでせうね。今更いうのも気が引けますが、うまいものですね。こういうウィットというか、ユーモアというかが丸谷エッセイの持ち味ですが、一つだけ注意事項をあげれば、旧仮名遣いなのです。英文学、ジェームス・ジョイスの研究あたりから出発した、結構、バタ臭い世界の人なのですが、2012年に87歳で亡くなるまで、日本語表記に関しては、最後まで旧仮名遣い、歴史的仮名遣いを貫いた人なのですね。まあ、そこを、めんどくさいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんね(笑)。 でも、まあ、お読みになれば慣れてしまうものです。試しに、最後に収められている「日本デザイン論序説」を引用してみますね。 和田誠さんとお話してゐて、わたしが、日本美には単純美とゴチャゴチャ美と二種類あるらしい、といふことを言つた。 まあ、ここまでが枕ですね。ここからのうんちくの展開が丸谷才一ですね。 事典で調べてみますと、たとへば井伊家の井筒なんてのは井の字を太く書いたけ。まことにそつけない。加藤家の一蛇目は黒丸のまんなかが 抜いてある、ただそれだけ。毛利家の一本矢羽なんてのも、黒い輪のなかに黒く塗りつぶした矢羽が一つ。御存じ島津家の十文字は丸に十。黒い丸といふのは黒田家のその名も黒餅でした。 得意の展開です。まず単純な家紋が出てきましたから、当然、複雑な方は?と気になります。で、お好きな方は、ネット上に「家紋一覧」とかいうサイトがないか探し始めて、見つけ出します。 ああ、一蛇目って、こういうのだ。 とかなんとか寄り道しながら、次に進むとこんな感じです。そしてこれに対するものは、まづ伊達家の竹の丸に二羽雀。二本の竹の輪のなかで雀たちも窮屈さうだし、笹の葉をたくさん描き添えなくちやならないからじつに厄介だ。鳥居家の二本竹に宿り雀といふのも面倒ですね。でも、こっちのほうが雀がのんびりしているか。 こうなると、「こっちが伊達でしょう。」 「で、こっちが鳥居ですね」としばし夢中ですね(笑)。 で、読んでいた本のほうでは、話が家紋から、社会全般に進んで結論に向かうようです。単純と複雑が対比して並べられます。笑えます。 伊勢神宮 対 日光東照宮 いろんな分野のデザインに表れている、単純と複雑、棲み分けの妙ですね。丸谷さん、お暇ですね。でも、ナルホド、ナルホド、で、面白いでしょ。 でね、棲み分けられないデザインが一つあるんですね。なんだと思います?どっちか一つに決めなければならない場合ですね、困るのは。 で、最後のうんちくは「日の丸」です。 まあ、ボクは、日の丸を見ると、ちょっとうんざりするタイプなのですが、金屏風からクリムトの例の絵まで持ち出して語る丸谷才一の結論(?)には、ちょっと、笑いましたね。気になるでしょ。お暇な方にはピッタリの「遊び時間」になりますよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.07.21 01:05:47
コメント(0) | コメントを書く
[読書案内「丸谷才一・和田誠・池澤夏樹」] カテゴリの最新記事
|