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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2023.09.04
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​​山里絹子「『米留組』と沖縄」(集英社新書)
 市民図書館の新刊の棚で見つけました。2022年4月の新刊です。西谷修の「私たちはどんな世界を生きているか」(講談社現代新書)という本の案内にも書きましたが、自分が生きているのが「どんな世界なのか」、その輪郭があやふやな気がして、まあ、ちょっとイラつているのですが、そのあたりの触覚に触れたのがこの本でした。
 「『米留組』と沖縄」(集英社新書)です。著者の山里絹子という方は琉球大学の先生で、社会学者のようです。
 書き出しあたりにこうあります。​
 戦勝連合国による日本の占領は、一九五一年のサンフランシスコ平和条約により終わったが、沖縄島を含む南西諸島は、日本から切り離され、アメリカ軍政による直接的な支配下に置かれた。
 ​​​​​​​沖縄の住民による「限定的」な自治を認めるため、琉球政府が発足したのが一九五二年。米軍の統治期間は琉球列島米国軍政府(軍政府)から琉球列島米国民政府(民政府)と名を変えたが。占領軍が決定権を持ち続けるという支配構造は、沖縄の施政権が日本へ返還される一九七二年まで続いた。
 ここまでは、あやふやではあるのですが、ボクでも知っていることでした。しかし、その時代、初等、中等教育を終えた沖縄の若者たちにとって、高等教育・大学教育の機会はどのように保障されていたのかについて、何一つ知りませんでした。この文章をお読みの方で、この時代に少年期、青年期を本土で暮らした方でご存知の方はいらっしゃるでしょうか?
 まあ、1954年生まれのボク自身は1972年に18歳ですから、ぴったり重なるのですが、何も知りませんでした。
 本書によれば、当時の沖縄の青年が高等教育を受ける方法は、本土の大学への留学、沖縄本島にアメリカ軍政府が設立した琉球大学への進学、そしてアメリカの大学への留学という三つの道があったようですが、もちろん知りませんでした。
 本書の記述は、そのうちの

「一九四九年から、アメリカ陸軍省はアメリカ政府の軍事予算を用いて、沖縄の若者を対象にアメリカの大学で学ぶための奨学制度」
「戦後沖縄社会において米国留学制度は「米留」制度、そして米国留学経験者は「米留組」と呼ばれ、合計一〇四五名の沖縄の若者がハワイやアメリカ本土へ渡り大学教育を受ける機会を得た」

 ​というアメリカの大学への奨学生留学について、「米留組」と呼ばれてきた人たちに対する具体的な聞き取りによる、事例の考察を目的とした論考です。
 読んでいて驚いたことは、現在も沖縄本島にある国立琉球大学が、アメリカ陸軍の占領統治資金で設置された占領地教育の大学であったこと。米国の大学への奨学生選抜が、占領地に対する想統制、あるいは分断化を目的として行われていたことの二つです。
 読み終えて、こころに残ったのは、二人の米留組のその後についての記述です。
​​​​ 一人は、太田昌秀さん2017に亡くなりましたが、1990年から2沖縄県知事を務めた方についての記述です。​​
​​ 
 太田さん一九五四年「米留」した第六期生だ。一九九〇年に沖縄県知事に就任し、一九九八年まで八年間の任期を務めた。
 一九九五年少女暴行事件が起こり、沖縄に大きな衝撃が走った。基地外に出かけた米兵三人に小学生が車で連れ去られ、暴行されたのだ。当初米兵の身柄を日本側が拘束できなかったことを受け、事件の1か月後には、日米地位協定の見直しと米軍の整理・縮小を求める抗議集会として「沖縄県民総決起大会」が開かれ、主催者発表で八万五〇〇〇人もの人が集まった。
 同年、大田さん代理署名拒否という形で、県民の怒りを日本政府に突き付けた。当時、米軍用地を所有する地主が契約更新を拒否しても、政府は強制的に使用手続きを行おうとしていた。そこで代理署名が大田さんに求められたが、拒否を表明したのだ。(P205

 これに対し、当時の内閣総理大臣が原告となり、大田知事を被告として訴える「職務執行命令訴訟」を起こした。
 一九九六年七月一〇日大田さんが法廷で意見陳述したことは次の通りだった。
 復帰に際し沖縄県民が求めたものは、本土並みの基地の縮小、人権の回復、自治の確立であるが、現在も状況はほとんど変わっていないこと。また、沖縄の基地問題は単に沖縄という一地方の問題ではなく、安保条約の重要性を指摘するのであれば、基地の負担は全国民で引き受けるべきであること。
 日本の民主主義のありようを問いただしたのであった。
 しかし、最高裁の法廷で裁判員は誰一人として大田さんを支持しなかった。最高裁の判断は「署名拒否によって国は日米安保条約に基づく義務を果たせなくなり、公益を害する」というものであり、敗訴という結果に終わった。(P206)

​ いかがでしょうか。で、もう一つは、著者山里絹子さん父親である方についてのこんな記述です。

最後の「米留組」だった。出発したのは1970アメリカの独立記念日74。(P234

 ふと父が私にゆっくりと聞く。
「もし、僕の足が自由に動いたら何をしたいと思う?」
会話の流れから外れた唐突な父からの質問に、私は息が詰まった。
― え?何だろう。また旅行に行きたい?
 私は冷静を保とうとしながらそう言った。
「旅行もいいけど、思い切り走りたい」と父が言った。
 そして、またゆっくりと私に聞いた。
「もし僕の両手が自由に…動いたら…何をしたいと思う?」ととぎれとぎれの声だった。
― うーん、なんだろう。私は喉の奥が熱くなり小さい声で言った。
「もし、僕の両手が自由に動いたら…お母さんを両手で抱きしめたい」
 私には言葉がすぐに見つからなかった。お茶を一口飲んでから、静かに息を吸って、声を整えて、ようやく言葉を発することができた。
― お母さんにも伝えてあげたほうがいい。(P240

​​​ 今や、老いた「米留組」の父と、自らもアメリカに学んだ娘の会話です。戦争をしかねない、愚かとしか言いようのない風が吹いています。沖縄の島々にミサイル基地を作るなどということが現実化しつつある時代です。歴史を知ることの意味を静かに、真面目に、考えることを訴える本でした。
 著者のプロフィールと目次を載せておきます。​​​
山里絹子(やまざと きぬこ)
琉球大学 国際地域創造学部准教授。1978年生まれ、沖縄県中城村出身。琉球大学法文学部卒業。2013年ハワイ大学マノア校大学院社会学学部博士課程修了。名桜大学教養教育センター講師を経て現職。専門分野は、アメリカ研究、社会学、移民・ディアスポラ、戦後沖縄文化史、ライフストーリーなど​

【目次】
はじめに ――戦後沖縄「米留組」と呼ばれた人々
第一章 「米留」制度の創設と実施
第二章 「米留組」の戦後とアメリカ留学への道のり
第三章 沖縄の留学生が見たアメリカ
第四章 沖縄への帰郷─「米留組」の葛藤と使命感
第五章 〈復帰五〇年〉「米留組」が遺したもの
おわりに ――もう一つの「米留」
あとがき

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最終更新日  2023.09.04 08:48:00
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