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ゴジラ老人シマクマ君の日々

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2023.10.14
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​​角幡唯介「裸の大地 第一部 狩りと漂泊」(集英社)
 角幡唯介という冒険家の​「裸の大地第二部 犬橇事始」(集英社)​という本を、偶然、読んで、40歳をこえた、いい大人がグリーンランドとかの果てで十数頭の犬と戯れて(?)いる話があまりに面白かったので、やっぱり、ここは第1部もというので、この本を読み始めました。
​​​​ 「裸の大地第一部 狩りと漂泊」(集英社)です。表紙を飾っているのは、第二部で主役の一頭だった迷犬(?)ウヤミリックと、今回は犬橇ではなくて人が引いて荷物を運ぶの写真でした。​​​​
​​​ 犬一頭に手伝わせて、角幡自身が自力で橇をひき、グリーンランドの北の果て
​​「もっと北へ!」​​
​ というわけで、ただ、ひたすら歩く話でした。​​​​
 著者の角幡唯介は1976年生まれらしいですが、2018年ですから、43歳だかの時の行動と思索の記録でした。
 先だって読んだ第二部は犬とか橇とかの写真が巻頭を飾っていましたが、本書はこんな書き出しで始まります。
 村に来て何日かたったころだった。降りつもる雪を踏みしめて、イラングアが私の家にやってきた。
 グリーンランド最北の村シオラパルクには今、四十人ほどしか住んでいない。二十代の男はわずか数人で、ほかの連中は隣のカナックや南部の都市にうつってゆき、日本の山村と同じように過疎化が進んでいる。イラングアは、わずか数人しかいない村の若い男連中のひとりだ。
 彼が私の家に来るのは、めずらしいことではない。イヌイット社会には伝統的にプラットという、文字通りぷらっと他人の家を訪問してコーヒーを飲んだり、ぺちゃくちゃ喋ったり、賭け事に興じたりする交流、暇つぶしの習慣がある。私は片言の現地語しか話せないし、客人をうまくもてなせるタイプでもないのでプラットにやってくる人は少ないのだが、人づきあいのいい彼は毎日のようにやってくる。そして誰それが猟に出て海豹を二頭獲ったとか、今日は天気が悪いからヘリは来ないよ、といった生活情報を教えてくれる。愛想がよくていつもケタケタ笑い声をあげ、冗談ばかり言って私をかつぐ、気のいい若者である。(P6)
​​​ で、そのイラングア君がこんな事を云ったところから、角幡流「冒険論」が始まります。​​
 カクハタ、あんた今四十二歳だろ。日本人は皆四十二歳で死ぬから、今年は旅をしないほうがいい。行ったら、あんた、死ぬよ。

 四十二歳は日本人にとって不吉な年なんだろ。ナオミだって死んだ、カナダで氷に落ちて死んだのもいただろ。(後略)
 ナオミというのはグリーンランドで英雄視されている冒険家植村直己のことであり、〈カナダで氷に落ちて死んだ〉というのは河野兵市である。植村直己厳冬期のアラスカ・デナリで消息を絶ったのは一九八四年、一方河野兵市二〇〇一年北極点から故郷愛媛をめざす壮大なプロジェクトの途上で氷の割れ目から海に落ちた。いずれもなくなった時の年齢は同じだ。(P7)​
​​​​​ 第1章「四十三歳の落とし穴」と題されていますが、ここから本書は「冒険」にとっての体力、精神力、そして、経験の意味について論じ始めます。​​​
​​​ 長くなるので名前だけ上げますが、長谷川恒男(アルプス三大北壁登記単独登頂)、星野道夫(写真家)、谷口けい(ピオレドール賞)といった、著名な人たち名前があげられ、四十二歳というのは、イラングアの間違いで、四十三歳という年齢について話はすすめられます。​​​
 結論は、誰にとっても、例外なく「危険な年齢」というわけで、角幡自身、そのことに無頓着なわけではありません。にもかかわらず、彼は「性懲りもなく」、また、旅をはじめようとしています。なぜでしょう。
​ 四十三歳で多くの冒険家が死亡するのは、多分、体力が経験に追い付かなくなることより、むしろのこされた時間が少ないと感じて行動に無理が出るからだ。(P17)​
​ これが、角幡が、旅に出かける前に下した結論です。で、読み始めて、ほぼ、20ページ、この個所に逢着して、後はノンストップでした。69歳になった老人が、角幡唯介などという、まあ、縁もゆかりもない、40代の冒険家の話に、どうして引き付けられるのか、答えがこれですね(笑)。
 さて、もう一つの読みどころというか、気に掛かるのは、「狩りと漂泊」という言い回しですね。
​ 誰かが作った、すでにある地図に頼ることなく、とにかく、行きあたりばったりで、たとえば「北へ」という目的を貫くことで、自分自身の地図を作りたい。​​
 ​​​まあ、要約すればそういうことのようです。​
​​「生」を生のまま自然に晒すにはどうしたらいいか。​​
​ そんなふうにも読めました。冒険でしょ(笑)。まあ、人生論でもあるかもしれませんね。で、生きるためには食うことはやめられませんから「狩り」です。「狩りと漂泊」という本書の題名の由来です。​​​
 そういうわけで、彼は出発します。
 準備をひととおり終え、いつも行動をともにしている一頭の犬とともに、第一回ノック奥狩猟漂泊の旅に出たのは三月十六日のことだった。(P60)

 最後はイキナ氷河を下って、五月二十九日に私は村にもどることができた。旅をはじめて七十五日目のことだった。氷河から村までの十五キロはスキーさえ重たくなり、橇にのせて犬に運んでもらった。(P276)
​​ こうして、犬とともに橇をひいて1000キロを歩く200頁の旅が終わったのですが、現場の描写は​​
​「いったい、いつ、獲物が現れるのか?いつ、食料は手に入るのか?」​
 ​​という、まあ、帰ってきて、こうして本を書いているのですから、大丈夫なのですが、ハラハラ、ドキドキで次のページ、次のページへと引きずられていく調子で、実に疲れる読書でした。​​
​​​ まあ、それにしても、雪と氷以外、ほぼ、なにもない話が、どうしてこんなに面白いのか、ホント不思議ですね。
​​あと何年…💦​​
​​​​ とかいう焦りに、フト、とらわれるお年の方にも、案外、おすすめなのではないでしょうか(笑)。ホント、命がけで、ようやるわという人の話って面白いですね(笑)まあ、何はともあれ、こちらは老人なわけで、​​​
​生きて帰ってこられてよかったね!​​
​ と、ホッと一息つくのでした。一応、目次、載せておきますね。​​​​
  目次

四十三歳の落とし穴

裸の山
狩りを前提とした旅
オールドルート
いい土地の発見
見えない一線
最後の獲物
新しい旅のはじまり
*付録 私の地図
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最終更新日  2023.10.15 00:53:34
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