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金子信久「長沢蘆雪 かわいいを描くこと」(東京美術) 明石の市民図書館の新入荷の棚に並んでいました。
「おっ、蘆雪!」 まあ、そんな感じで手に取りました。金子信久という美術館にお勤めらしい方の「長沢蘆雪 かわいいを描くこと」(東京美術)という、大判の美術書(?)です。表紙からして「かわいい」でしょ(笑)。 長沢蘆雪という人は「かわいい」で人気なのだそうです。ページを繰ると、江戸のかわいいがあふれていました。 まあ、ボクにとっての江戸絵画との出会いは、この長沢蘆雪に限らずなのですが、40代の終わりごろだったでしょうか、橋本治の「ひらがな日本美術史(全7巻)」(新潮社)という、まあ、ものすごく面白い美術全集との出会いが始まりました。 その後、辻惟雄という、これまた、ものすごいセンスの人の「奇想の系譜」(ちくま学芸文庫)、「奇想の図譜」(ちくま学芸文庫)に夢中になり、ちょうどいい具合に職場の図書館の蔵書整理係だったこともあって、誰も来ない図書館で、そのころ出たばかりの「日本美術の歴史」(東京大学出版会)という新しい入門書の記述と、書庫でほこりをかぶっていた古い美術全集の1ページ、1ページの埃を拭いながら照らし合わせたりして、まあ、本人はそれなりに勉強しているつもりで面白がっていたのですが、定年退職がゴールで、図書館の住人でなくなったことが淋しかったこともあって、日本美術史総覧、完走、ゴールしたことに満足して、すっかり忘れていました(笑)。 まあ、そんなわけで、ようするに、実物、本物の絵なんて見たことはほとんどないのです。だから、面白がることはあるのですが、感動がないんですね(笑)。いかにも、参考書風の知識ばかり振りましたがる、安物の教員根性の興味なのですが、それでも、好きなのは好きなのでしょうね、図書館の新刊の棚に「長沢蘆雪」の名前と、彼の独特の子犬を見つけると、思わず手に取ることになるのでした(笑)。 長沢蘆雪という人は円山応挙のお弟子さんです。曽我蕭白という、これまた、奇想で評判の絵描きさんがいますが、ほぼ同時代の人といっていいでしょうね。有名なのは、和歌山県の串本にあるらしい無量寺というお寺にある「虎図」とかです。 この絵ですが、素人目にも絵に愛嬌があるんですね。辻惟雄が「奇想の系譜」で彼のことを「鳥獣悪戯―長沢蘆雪」と章立てして解説・紹介しています。そのななかで、この虎の絵についてこんなふうに書いています。 獲物に襲いかかろうとする虎の全身が、襖三面いっぱいの大きさにクローズアップされ、見る人をたまげさせる。少なくとも、こうした表現は、従来の動物画には類を見ない型破りなもので、師応挙の目から離れた蘆雪の開放感の所産ともいえるだろう。ただ気になるのは、この虎が、猛獣らしい凄みをさっぱり欠いていて、むしろ猫を思わせる無邪気さが感じられる点である。(P196)」ねっ、ちょっと笑えるでしょ。 「皮肉な蘆雪が胸中ひそかに戯気を描いて巨大な猫を描いたのではないか」 という山川武という人の説を同意しながら付け加えられていますから、決してバカにしているわけではありません。「鳥獣悪戯」と評している所以ですね。 まあ、そういうわけで、長沢蘆雪の持ち味の特徴は悪戯=いたずら、そして、かわいさなわけですが、ボクが図書館で見つけた金子信久「長沢蘆雪 かわいいを描くこと」(東京美術)は、そのかわいさに目をつけて編集されています。 「かわいい」というコンセプトで編集、紹介、解説しているところがミソですが、たとえば、上の写真「唐子図」のような子どもといい、表紙の子犬といい、まあ、虎といい、可愛さ花も並ではありません。楽しい本でしたよ。若い人が、このあたりから江戸の絵画、ひいては日本美術に興味をお持ちになるのもありだなあと、まあ、そんな気持ちで案内しました。 ちなみに、上の引用で貼った写真は辻惟雄「日本美術の歴史」と「奇想の系譜」からのコピーです。「かわいいを描く」にも所収されていますが、もっと美しい写真です。あしからず(笑)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.10.28 12:26:00
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