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カテゴリ:演劇「ナショナルシアターライブ」でお昼寝
NTLive C・P・テイラー「善き人」シネ・リーブル神戸 ここの所、毎月、出かけているナショナルシアター・ライブです、今日はC・P・テイラーという人の戯曲、「善き人」です。
セシル・フィリップ・テイラー、1981年に42歳で亡くなった、イギリスのユダヤ系劇作家の遺作のようです。アウシュヴィッツ以後の世界、所謂、戦後演劇の世界では、今や古典的戯曲といっていい作品だと思います。映画にもなっています。原題は「GOOD」ですから「善い・・・」ですね。「GOD」ではないのですが、なんか、ちょっと引っ掛かります。 で、舞台に登場するのは3人の俳優だけでした。デヴィッド・テナントという男優が主役のハルダー教授だけを演じますが、エリオット・リーヴィー、シャロン・スモールというお二人は、リーヴィーが主人公が出会うすべての男性(ユダヤ人モーリス・アイヒマン・ナチスの将校・他)を、スモールが、同じくすべての女性(母・妻・愛人・他)を演じていました。舞台は壁で囲まれた空間で、壁際がベンチ、あるいはベッドになっています。 場面の転換は、照明に浮かび上がる人物の姿とセリフによるものだけで、映像も書割も使われていません。音響はクラシックの楽曲が、時折、背景的効果音として聞こえてきますが、ラストシーンでは収容所のユダヤ人たちの合唱が舞台全体を包み込むように演出されていました。 生真面目な文学研究者であるハルダー教授が、「安楽死」に関する論文によって、ヒトラーに見いだされ、ナチスの批判的協力者から、ホロコーストの推進者へと変貌していく経緯と、老いた母と長年連れ添った、しかし、わがままな妻を捨て、若き愛人との暮らしを選び取っていきながら、水晶の夜=クリスタルナハトを目前にして不安に苛まれるユダヤ人の友人モーリスを見捨てていく姿を重ねて演じていく舞台です。 同じ舞台に居続けている主人公ハルダー教授の「ことば」と「すがた」が「善き人」であり続けようととすることの欺瞞を浮き彫りにしていく、デヴィッド・テナントの静かな演技には目を瞠りました。 「われわれの想像力はアウシュヴィッツを経験した。われわれはその地点から後戻りしてイノセントになるわけにはゆかぬ。」 今年、2023年に亡くなった、作家大江健三郎の若き日の発言ですが、彼がこの発言をしたのは1972年でした。C・P・テイラーがこの戯曲を書いたのが1981年だそうです。 今、目の前の社会には「イノセント」というようなことばでは、とても言い表せそうもない「無知蒙昧・夜郎自大」の「善き人」たちがあふれていると感じるのは、老人の勘違いでしょうか。 ヨーロッパの映画や演劇が繰り返しアウシュビッツをテーマにするのは、必ずしもユダヤ資本による自己正当化の結果ではないでしょう。しかし、一方にガザの現実もある訳で・・・・。 見終えて、納得した舞台でしたが、何となく不安が湧き上がってくる帰り道でした。世の中、どうなるのでしょうね。 まあ、何はともあれ、主演のデヴィッド・テナントは勿論ですが、エリオット・リーヴィー、シャロン・スモール、さすがのお芝居でした。拍手! シンプルな舞台構成で、役者の内面の表現をクローズアップした演出家ドミニク・クックにも拍手!でした(笑)。 作 C・P・テイラー 演出 ドミニク・クック 出演 デヴィッド・テナント エリオット・リーヴィー シャロン・スモール 2023年・136分・G・イギリス 原題National Theatre Live「Good」 2023・10・29・no133・シネ・リーブル神戸no209 ! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.11.01 13:23:36
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