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カテゴリ:読書案内「昭和の文学」
幸田文「木」(新潮文庫) 2023年の年の暮れに封切られた話題の映画、ヴィム・ヴェンダース監督の「PERFECT DAYS」の中で、主人公の平山正木(役所広司)さんが古本屋の棚で見つけて買い込んだ本の1冊がこの本でした。
幸田文「木」(新潮文庫)です。 幸田文といえば、まあ、いわずと知れたと思っていたのですが、知り合いの女子大生さんたちに聞くと、どなたも 知らない! ということなので、ちょっと、紹介します。 明治の文豪(?)幸田露伴の娘で、随筆家青木玉の母親、孫の青木奈緒もエッセイストという方で、「みそっかす」(新潮文庫)だったか「おとうと」(新潮文庫)だったか、その他、いくつかの随筆作品だったかが、中学や高校の教科書にも載っていたことのある文章家です。小説家とか随筆家とかいうのが、チョットはばかられる気がするのがこの方のありようだとボクは感じていますが、まあ。一般には作家と呼ばれています。亡くなられて、三十数年経ちますが、お着物のきりっとした姿が、まあ、ボクなどにはすぐに浮かぶ方です。 今回の読書案内の「木」(新潮文庫)については、映画の中で古本屋の女主人が、幸田文の文章のすばらしさだったかについて一言いいましたが、何といったのか覚えていません。平山さんがこの本を手に取った理由は、彼が植物一般の中で、特に 樹木が好き! だったからのようですが、彼は寝床でこの本を読みます。感想は何も言いませんが、十幾つかの短編の随筆(?)集ですが、最後まで読んだようです。 本そのものは、1990年に幸田文が亡くなった後、1991年に出版されたのですが、1995年に文庫化もされて、手元の本は1999年に八刷ですからロングセラーですね。 まあ、しかし、それから20年以上たっていますから20歳の女子大生はご存知ないというわけです(笑)。 ふと今の木の、たくさん伸びた太根の間に赤褐色の色がちらりとした。見ても暗いのだ。だが、位置の加減でちらりとする。どこからか屈折して射し入るらしい外光で、ふと見えるらしい。そっと手をいれて探ったら、おやとおもった。ごくかすかではあるが温味(ぬくみ)のあるような気がしたからだが、たしかにあたたかかった。しかも外側のぬれた木肌からは全く考えられないことに、そこは乾いていた。林じゅうがぬれているのに、そこは乾いていた。古木の芯とおぼしい部分は、新しい木の根の下で、乾いて温味をもっていた。指先が濡れて冷えていたからこそ、逆に敏感に有りやなしのぬくみと、確かな古木の乾きをとらえたものだったろうか。温い手だったら知り得ないぬくみだったとおもう。古木が温度をもつのか、新樹が寒気をさえぎるのか。この古い木、これはただ死んじゃいないんだ。この新しい木、これもただ生きているんじゃないんだ。 いかがでしょう。所収されている最初の作品、「えぞ松の更新」の最後の1ページです。倒木の割れ目に手を差し入れて「ぬくみ」を見つける手つきと、たたみかけていく書きぶりが幸田文だと得心しながら、平山正木さんも、きっと、富良野の森の奥を思い浮かべながら心揺さぶられたに違いないと納得するのでした。 最後に目次を載せておきますね。数字は所収ページです。 目次
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最終更新日
2024.01.04 00:16:32
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