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小澤征爾・大江健三郎「同じ年に生まれて」(中公文庫) 2024年の2月6日、音楽家の小澤征爾が亡くなったそうです。フェイスブックで知り合った方が、その記事をシェアなさっていたので知ったのですが、記事を読みながら涙があふれてきて、チョットうろたえました(笑)。
小澤征爾が指揮するコンサートに行ったこともなければ、LPやCDにしても、立派なステレオシステムで聴いたこともありません。ときどき、ユーチューブで聴くくらいなものです。 ただ、彼の、例えばチャイコフスキーの「弦楽のためのセレナーデ」とかを、パソコンをいじるときのBGMで聴いたりしていると、何故か、突如、涙が流れてきて困る、そういう、音楽家です。 で、思い出したのがこの本です。小澤征爾と大江健三郎の対談集です。 「同じ年に生まれて」(中公文庫) 2004年に出版された文庫本です。下の目次にありますが、2000年に行われた3回の対談をまとめた本です。 思い出した理由は、もちろん小澤征爾の訃報が2024年、2月6日の死を伝えたの見て、即座に大江健三郎が2023年の3月3日に亡くなったことを思い出したからです。 「ああ、あの二人は同じ年に生まれて、同じ年に逝ってしまったんだ。」 ボンヤリそんなことを考えていて、この本です。表紙の写真は、2000年ですから、お二人が65歳のときの姿です。 内容は2000年の8月に、長野で二度、同年の12月に東京の成城で一度、計、三度の対談とこの時の「出会い」について、それぞれの気持を書いた二つのエッセイです。 小澤征爾は「語り合えてよかった」と題してこんなふうに振り返っていらっしゃいます。 思い起こせば今から四十年近く前。指揮者として着任したばかりの僕がNHK交響楽団にボイコットされた時、大江さんは武満さんと井上靖さん、三島由紀夫さん、黛敏郎さん、團伊玖磨さん、有坂愛彦さん、一柳慧さん、それから中島健三さん、山本健吉さん、浅利圭太さん、谷川俊太郎さん、石原慎太郎さんたちと一緒に、僕を励ますためのコンサートを急いで開いてくれたことがあった。あのコンサートのおかげで、僕にとって夢にも考えなかったほど大勢のさまざまな友人、先輩が一気に増えた。けれども僕はすっかり日本で仕事をするのをあきらめて、仕事のあてもないままアメリカに渡った。そんな、半人前にすらなっていなかった僕を、大江さんは知っている。僕たちは同じ時代を生きてきたんだと、しみじみ懐かしい。(P224)後に「世界の小澤」と呼ばれるようになる、小澤征爾の始まりの思い出ですね。 ヨーロッパ帰り、カラヤン仕込みを鼻にかけたかもしれない26歳の青年指揮者をNHK交響楽団のメンバーが全員でボイコットしたという事件はかなり有名ですが、1961年のことですね。その時、一人で指揮台に立った青年を励ました人たちがいて、その人たちの名前を、65歳になった、あの時の青年が、一人一人、指折り数えている姿が思い浮かんでくるようで胸打たれました。 で、話し相手が大江健三郎ですね。 小澤さんと僕とは同じ年に生まれた。小澤さんは中国で、僕は四国の森の中で。戦後の社会の混乱と、それが再生する過程の気風をなした民主主義がなかったら、異分野で仕事を始めたばかりの青年であるふたりが会って話すことはなかっただろう。いま、初老となったふたりがあらためて長い時間をかけて話すこともなかったにちがいない。 まあ、こちらも「ノーベル文学賞作家」なわけで、どちらが主役というのは決めかねますが、彼は彼で、二人の活躍を総括する言葉として「民主主義」を出してくるというところがおもしろいですね。 彼が使う「民主主義」という言葉が、この対談以前はもちろんのこと、この出会いから、今日までの20年の間に、あくまでも、その言葉を使い続けた大江ともども、惨憺たる目にあっていることを思わないではいられない印象的な文章だと思いました。 くりかえしになりますが、同い年、1935年生まれで、敗戦の年に10歳です。その、お二人が、同じ一年の間に、ほぼ、90年の生涯をとじられたのを目の当たりにして、まあ、1980年ころから「戦後」の終わりは繰り返し言われてきたことではあるのですが、 いよいよ「戦後民主主義」が終わった! まあ、そんなことを実感しました。 対談そのものは、具体的な引用はしませんが、今、お読みになれば、20年前の発言のぶつかり合いということはあるにしても、闊達だった小澤征爾、いつものようにくどい大江健三郎に出会える面白さがありますね。まあ、ある年代より上の方という条件はあるかもしれませんが、「自分たちが育った時代」が終わったことをお感じになるのではないでしょうか。 なんだか消極的理由ですが、お読みになってはいかがでしょう。 参考までに目次を貼っておきます。 目次 追記 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.02.24 15:31:16
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