|
半藤一利編「夏目漱石 青春の旅」(文春文庫ビジュアル版) 今日はこんな本もあるよの案内です。30年前の文庫本です。今では、まあ、当然という気もしますが、そのころ「ビジュアル文庫」とか、「ビジュアル新書」とかで、写真をたくさん入れての「入門」、「解説」本が流行りました。
この本は文春文庫のビジュアル版で、「漱石先生ぞな、もし」(文春文庫)の半藤一利の編集で、松山、熊本、阿蘇、ロンドン、足尾、そして東京をたどった、いわば、はじまりの漱石の旅をビジュアルにたどって紹介しています。 で、「夏目漱石 青春の旅」と題された、解説風エッセイ集です。 書き手は以下の目次のとおりです。 「目次」 ちなみに夏目房之介は漱石の孫でマンガ家です。早坂暁は「夢千代日記」の脚本家、光岡明、立松和平は作家、出口保夫は早稲田の先生で漱石研究者、関川夏央は、うーん、何といえばいいのでしょう、まあ、評論家ですね。 もっとも、半藤一利はじめ、書き手の皆さんはボクにとっては同時代の人たちですが、夏目房之介、関川夏央のお二人以外の方たちは、もう、この世の人ではありません。ただ、ここに書かれている文章が気に入れば、作品を追うことは可能です。皆さん一流の書き手ですね。 所収の写真は、まあ、観光地カラー写真という趣で、それぞれの作品の舞台の今を撮った写真と、その昔のセピア色写真が上手に配置されていて飽きません。ボクは「抗夫」の舞台(?)であった、足尾銅山あたりの、廃墟化した写真に胸打たれました。他にも、虫眼鏡で覗きたくなるような集合写真、家族写真や、たとえば昔の松山中学とかの写真もあります。 さて、何をどう案内すればいいのか悩みますが、早坂暁が「坊っちゃん」と正岡子規に関わる文章の中で 「おっ!これは!」 と面白く読んだ一節があるので、とりあえず、それを紹介しておきますね。 小説「坊っちゃん」のおれが松山を去るくだりはこうなっている。なんか、長々しく引用しましたが、ボクが面白く思ったのは、引用部の結論部分ですね。 「戦後の敗戦国の子として、占領軍の欧化による帝国づくりに猛烈に反撥し」 というところです。もちろん戦争は戊辰戦争、占領軍は明治の新政府ですが、漱石こと夏目金之助が、明治の新教育制度のエリート中のエリートだったことは常識です。イギリスへの国費留学、で、ヨーロッパの近代文化との出会いの結果に生まれた「私の個人主義」というような漱石理解の文脈では、どうしても見落としてしまうのが、ここで、早坂暁が指摘している、その漱石の、もう一つ内側にある「社会観」ですよね。1967年、慶応三年生まれの夏目金之助くんは明治と同い年なのですが、明治の東京の少年でありながら、江戸の町のガキでもあったというわけですね。 維新戦争の戦後文学として漱石文学という発想、面白いですね。
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024.10.11 11:51:18
コメント(0) | コメントを書く
[読書案内「漱石・鴎外・露伴・龍之介・百閒・その他」] カテゴリの最新記事
|