チャン・ジーウン「BLUE ISLAND 憂鬱之島」元町映画館no147
チャン・ジーウン「BLUE ISLAND 憂鬱之島」元町映画館 理由はわからないのですが、ここのところ行動力(まあ、そんな大したものははなからないのですが)がダウン気味で、例えば映画館に出かけるというようなことがプツンと止まっています。お天気が悪かったり、寒かったり、まあ、その日その日の理由はあるのですが、ホイホイ感がありません。 今日も、出かけようと思うと時雨れてきて、「ウーン???」となったのですが、「エイッ!」と出発してやって来たのが元町映画館です。 見たのは、チャン・ジーウン監督の新作「BLUE ISLAND 憂鬱之島」です。香港民主化運動を、そのまま撮って見せた「乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動」で一世を風靡した、あの、チャン・ジーウンなのですが、驚いたことに、お客はまばらでした。チャン・ジーウンが「乱世備忘 ― 僕らの雨傘運動」を撮ったのは2014年です。それから8年の歳月、時代錯誤的な個人独裁の道を歩んでいるとしか思えない指導者(?)によって、資本主義的共産主義というインチキで人気をとりながら、全体主義の王道を歩んでいる国であるとでもいうしかない中国という、超大国が、香港の民主化運動を圧殺してきた歴史は、傍観者を決め込んでいる、ぼくのような、極東の島国の徘徊老人の目にも明らかです。 しかし、傍観者には、傍観者なりの意地もあるわけで、「20年後に信念を失っているのが怖いか?」と、あの映画で問いかけたチャン・ジーウン監督が、この、圧倒的な敗北の嵐の中で、映画監督として何をしているのか、何が可能なのか、それが知りたくてやって来た元町映画館でした。 見始めた当初は不思議な映画でした。監督当人が、どこかで、「ハイブリッド」と言っていましたが、「ドラマ」と「ドキュメンタリー」と「インタビュー」が混ざっていて、登場人物の顔をきちんと認証できない老人には、とりあえず意味不明でした。 若い男女が何者かから逃げるように、山中をさまよいながら、やがて海に出て、対岸を目指して泳ぎ始めます。次のシーンでは、その男性と同じ名前の老夫婦が民主化デモの雑踏の中で、手をつないで歩いています。「文化大革命」の混乱から、「香港」に逃げてきた老人が、あれから60年の生活を語りながら、「毛主席万歳」を叫ぶ「ドラマ」シーンを見て、照れ笑いをしています。「どうも、同じ人物らしい。」 映画の、たくらみが、ぼんやりと浮かび始めました。「天安門」の悲惨を語る少し若い老人が映ります。「香港」の今の映像が重ねられて、「軍が出てきたら、もうどうしようもない。」とつぶやきます。 若者たちが、口々に「香港人」と名乗り、催涙弾やゴム弾、あるいは、実弾さえも込められているらしい銃が、歩いていている市民に水平撃ちされ、逃げ遅れた人に襲い掛かって警棒による滅多打ち、殴る蹴るの暴行三昧の警官隊に対して、果敢に抵抗しているシーンが映ります。 シーンが変わって、インタビューに答える青年たちは、一様に「香港人」を名乗ります。 で、デモの行列の群衆の中で顔を見かけた老人が、港の公園でしょうか、入念に準備運動をし、水に入って、抜き手を切って泳ぎ始めます。自由を求めて、ここに来てここで暮らしている「香港人」の一人です。 この町で暮らし、自由を求めて戦い続けている若者、女性、子供、老人、彼らのこころを支える「香港人」というアイデンティティの歴史を描くことで、闘いの正統性と、思想性を訴えようというのが、おそらく、チャン・ジーウン監督の、この映画にかける意図だと思いました。中国現代史の闇を「香港人」という、不屈のアイデンティティにつないで見せた「歴史」に対する洞察は見事でした。 単なる、民主化運動のプロパガンダ作品ではなく、歴史に残る傑作だと思いました。チャン・ジーウン監督の不屈の闘志に拍手!そして、香港の人たちを始め、自由を求めて戦う人々に拍手! 香港の現状は、決して他人ごとではないのではないでしょうか。 ぼくは、「香港を、そして、香港人を忘れませんよ。」監督 チャン・ジーウン製作 ピーター・ヤム アンドリュー・チョイ 小林三四郎 馬奈木厳太郎撮影 ヤッルイ・シートォウ美術 ロッイー・チョイ編集 チャン・ジーウン音楽 ジャックラム・ホー ガーション・ウォンキャストチャン・ハックジー(チャン・ハックジー)ラム・イウキョン(ラム・イウキョン)アンソン・シェム(チャン・ハックジー)シウイェン(チャン・ハックジーの妻)フォン・チョンイン(ラム・イウキョン)2022年・97分・G・香港・日本合作原題「憂鬱之島 Blue Island」2022・10・25・元町映画館no147