遠くまでゆく日
ずっと心に引っかかっていて、でも、何故思い出したのか分からない。30年近くも忘れていたというのに……「遠くまでゆく日」 三田村信行・著/菊池 薫・絵創作こどもSF全集 13(↑表↓裏)----------小学校一年生の時、初めて学校の図書室で借りて読んだ本だった。「図書室の使い方」を学ぶ授業だった。図書係を、上級生(三年だと思う。四年か?)の人がやってくれた。代本板を作ってもらった。自分の名前を告げると、図書係の上級生が私の名前をからかったのだと思う。(別に変わった名前ではない)僕も彼の名札を見て、(当時の名札では、クラスに同じ名字の人がいる場合、名字の傍に小さいひらがなで、名前の最初の一文字が書かれていた)唯一読める文字「ゆ」のひらがなを見つけて、「ゆ」「ゆ」と言い返した。そうしたら上級生に木の代本板で頭を叩かれた。別に大して痛かった記憶はないが、僕は泣いた。そうすると、その上級生の隣にいたお姉さんが、その上級生を叱り、僕を慰めてくれた。「こんな小さい子に何をするのか」というその叱り方が、僕はよほど気に入ったのか、よくその出来事を覚えている。……そして、初めての図書室で見つけたのが、この本だ。表紙には奇妙な宇宙生物が、裏には原爆とも火山噴火とも見える不気味で恐ろしい絵が描かれている。表紙の絵は、不気味だがそこはかとない淋しさを湛えており、どこまでも吸い込まれそうな気がする。映っているのは、お父さんとお母さんだ……と誰もが感じるのだろうか。そして何故、僕はこの本を手に取ったのか。小学一年にして、既に人間の根幹となる部分は、変えがたい程に出来上がってしまっているのである。以後、自分が”そういう方向”に進んで行くのは、必須なのだ。……当然内容は、一年生の僕には理解できなかった。そして、すぐに返却した(挿絵くらいは見たかもしれない)。その時、図書係の人に「もう読んだの? 早いね」と言われて、「読んだ」と嘘をついた恥ずかしい記憶もある。その後、学校では、課題図書とか、図書の時間だとかで何度か図書室を利用することになるが、学年が上がっても、僕はこの本以外を手に取った記憶はない。……この本を読むと、暗くて、おごそかな気持ちになる。それを人は、或いは「敬虔な」と呼ぶのかも知れない。何か、とてつもなく大きなものと対面した時の気持ち。自分の運命が、自分ではどうにもならないこと、未来は霧のようだが、その霧は決して虹色をしているのではなく、この表紙のような、冷たく、暗く、どこまでも続く収束と終焉の色をしていること、そういう気持ちになる。……昔から良く見る夢がある。(最近は見なくなったが)私は小さな双葉の芽で、そこに巨大な、高さ何百メートルもありそうな巨大なタンカーが押し寄せてくる。彼は私をつぶそうとしているのだろうか?それは分からないが、とにかく私は逃げても無駄なのだ。恐怖なのか、畏怖なのか、それとも信仰なのか?そのタンカーを思い出すと、私は圧倒される。その気持ちに近いかもしれない。……私は小学校五年生の後半くらいから、ずっと「死にたがり」を続けてきたが、わずかにはこの本の影響もあると思う。(影響と言うよりも、もともとあったつぼみの開花への栄養になったと言おうか)この世は永遠に続く暗い道に落ちている一冊の本だと、水木しげる氏は言った。彼は、その本の中で、人間は泣いたり笑ったりして過ごし、読み終えるとまた永遠の暗闇が続くのだと、言った。しかし、私の拾った本の中身は、あまりにうらぶれたものだった。ちょうど、この本のように……もちろん人生には楽しいこともある。釣りに行って、大きな魚が釣れた時は、何もかもを忘れてうれしかった。友達と向島のフラワーパークで無邪気に走り回っていた時もそうだ。しかし、その時間の前にも、その後にも、やはり続くのは、私を「死にたがり」にさせる暗くて、苦しい日々なのだ。……最近になって思うのは、自分はようやく「死にたがり」を脱したと考えていたが、これはただの誤解だったのではないかということ。私は「生きたい」と思って生きているのではなく、ただ「生きなければならない」と思っているから、生きているのではないかと。結婚をして、子供を作って、私は「生きなければならない」状況にいる。だが私の存在がなくても家族も幸せに暮らすことができ、世の中の、私が怒りに震えるような出来事もなくなり、すべてが平穏無事なら、私はやはり「死にたい」のではなかろうか。それとも最近では、つと私利私欲が大きくなってきたために、ただ単に私利として「生きたい」と思っているだけなのではなかろうか。まだそこの点ははっきりしないが、私が本当に望んでいるのは、色々な呪縛から解き放たれた時、自分は果して「生きたい」と思うのか「死にたい」と思うのか、それをゆっくり考えてみたい、ということだ。ただ、それが叶うには、何億円もの金を貯めなければならないだろうが。そして、そういう風なうわ言を考えていると、夢うつつの内に人生が終わるのではなかろうか。……10年ほど前、私は確かに幸せだった。おいしい食事があり、風呂に毎日入れて、そして歩いていても銃弾が飛んでこない、この国に生きていることが、とにかく幸せだと思った。そして気づいたら「死にたがり」でない自分がいた。確かにそれは事実である。それは、一方では自分は成長の途上であり、「今はこのままの道を歩いていて良い」という自信があったからでもあろう。しかし今は違う。成長の結果である果実を収穫する時期にも関わらず、やせ細ってスカスカの実しか実らせられない自分がいる。だから焦ってはいるのだ。しかしその焦燥と裏腹に、毎日がひどい疲労の中で過ぎていく。何かを、考えるような余裕なく…………さぁ、この本を読もう。読んで何が変わるわけではないが、読もう。きっと、哀れな自己陶酔くらいには浸れるに違いない。----------(読後)私が金にうるさくなったのも、この物語に一因があるかもしれない。貧乏は、暗い家庭を作る。貧乏はそして……死に直結する……そういえば小学生のころ、何故かいつも会うと、にっこりと微笑みかけてくれるお姉さんがいた。きっと彼女と私の間には、接点があったに違いないのだが、私の方はまるっきり覚えていないし、微笑みに何か返せるほどの愛想も持ち合わせていない。ただ、ぷいと無表情に無視をするだけだった。愛想のない子を見ると、そして愛想がないことを母親から責められたりしているのを見ると、その不条理と、自身の人間的能力の低さに、苦しくなる……(↓もう絶版だけど、なんか全集だったら売ってるんだ。別に他の巻読みたかないけどさ)送料無料!ポイント2倍!!【児童書】創作子どもSF全集 (全20巻) / 漫画全巻ドットコム05P12Jun12価格:42,000円(税込、送料込)