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テーマ:ミステリはお好き?(1497)
カテゴリ:感想
家庭の事情で、隣家の乙太郎さんとナオの家に厄介になる高三の友彦。乙太郎さんは事故で妻を、さらにそれがもとで長女を亡くしている。白蟻駆除の仕事について行った先で友彦が見かけたのは、乙太郎さんの長女サヨによく似た女性だった。その女性が忘れられない友彦は、家の床下に忍び込んだ。彼女の情事を盗み聞きするために・・・
なんとも奇妙な作品でした。非常にミステリ的でありながら、結果としてミステリではない、そんな複雑な感じです。 たとえば白蟻駆除に出かけた先で起きた火災、あるいはキャンプ先での火災、サヨの死、そして智子の行方。どれも積極的に調べるわけではありませんが、友彦だけでなく読者にも、大きな引っかかりをもたらします。大きな誤解と小さな嘘の積み重ねがミステリとしては魅力的な題材に見せますが、この作品においてはこれらの出来事が中心ではないのです。 突き詰めれば、中心になるのは友彦の心理ではないでしょうか。数々の事件の真相に近づき、責任を感じ、時には嘘や隠しごとをしてきた友彦。それによって傷つけてしまった人もいるし、彼自身も新たな真相にめぐり合うたびに傷ついていく。その繰り返しなのだけれど、衝撃は波のように大きくなっていくように感じました。 自業自得といってしまえばそれまで、しかしほんの小さな出来事がどんどん大きくなって我が身に帰る。友彦の受けた衝撃はどれほどだったでしょうか。今までの作品と比較すると、読者に対しては特別に大きなどんでん返しはないでしょう。ただ、友彦にとっては相当に大きなどんでん返しの繰り返しだったに違いありません。 また、終始一貫して友彦の味方であったナオですが、友彦にとって大きな岐路で存在感を示します。また、友彦の行動が多分に利己的であったのに比較して、ナオの嘘が疑われる行動はすべて友彦のための行動とも解釈できるのはポイントでしょう。 これをミステリかと訊かれれば、自信を持ってミステリであると答えることはできません。しかしながら、ミステリ的な手法を用いた傑作であるとは言えると思っています。ストレートなミステリもいいですが、またこういった味わいの作品も読んでみたいです。 2010年3月10日読了
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Last updated
2010.03.16 18:32:59
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