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八重樫太一が部室で聞いた話は、俄かには信じられないもの。前の晩に青木義文と桐山唯の人格が一度入れ替わったというのだ。青木は熱弁するが、桐山ですら半信半疑。だが、人格の入れ替わりは文研部の五人の間でランダムで起きるようになり、信じざるを得なくなる。その状況をはじめは楽しんでいたかのような太一たちだったが・・・
第11回エンターブレインえんため大賞〈特別賞〉受賞作。これはおもしろい入れ替わりものでした。 入れ替わりものの定番は、入れ替わることによるトラブルやどたばたとした騒動に重きを置き、その部分で楽しさを見せるものだったように思います。周囲が不審を覚えたり、ひたすら隠し続けることによる弊害が発生したりということ。もちろん、元に戻る方法の発見もあります。 この作品はそういう部分ではなく、入れ替わることによってわかる他人の奥深いところにある悩み、問題の解決という面に中心があります。その点に一歩踏み込んだような感覚を覚えました。入れ替わることで他人を見つめ、そして自分を見つめているのです。 当然そこには入れ替わることで自分を知られてしまうこと、相手を知ってしまうことへの葛藤があります。白日のもとにさらされた事実は、それを認め、受け入れなければ永遠に道は開けない。それはそうかもしれませんが、ちょっと上手くいきすぎじゃないですか。そんなに簡単に解決へ進めるのなら、ここまで問題として抱えていないのでは? まあ、良くも悪くも青春ですね。 女性三人がそれぞれにクローズアップされる中で、残されたもうひとり青木がいまいち影が薄かったでしょうか。彼にもきっと他人に話せないようなことがあったのではないでしょうか。残されてしまいかわいそうに。 おもしろかった中で一点腑に落ちなかったのは、どうして入れ替わったのかということでしょうか。もちろん科学的にではありませんが、ここがもう少しきっちり説明されていれば、言うことはなかったかなあ。 ともかく、おもしろい入れ替わりものでした。5月の次回作、仮題だけ見ると続編ですか? 2010年3月14日読了
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Last updated
2010.03.29 16:25:55
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