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2010.03.31
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カテゴリ:感想
 遠く九州から大学進学のため上京した横道世之介。東京での生活は思いもよらないことばかりだが、その中で彼はいろいろな人に出合う。成り行きでサンバサークルに入ったり、コンパで世間知らずなお嬢様と出会ったり。彼の一年間、そして二十年後は・・・

 正直、序盤は少し退屈でした。何か劇的なことが起こりそうもなく、世之介もごく平凡な大学生ですし。しかし、終盤まで読むと思わず目頭が熱くなるほど引き込まれました。世之介の人となりが心に深く浸み込んでくるのです。

 物語は、大学一年の世之介の一年間の中に、二十年後の世之介に関するエピソードが縦糸と横糸のように綴られます。
 縦糸になる世之介の大学生活は、はっきり言ってどこにでもあるようなものです。僕自身とは少々世代が違うのですが、典型的なバブル世代の学生生活のようです。しいて言えば、世之介自身が頼りない、あるいはちょっと地に足がつかないような人物であるためか、周囲の人物がみんな少しずつ普通じゃない点が変わっているでしょうか。交際した祥子は世間知らずでずれているお嬢様、入学してすぐ知り合った倉持と唯はできちゃった結婚で退学するなど、世之介よりもよほど物語になりそうな人物が揃っています。ただし、世之介と彼らのつきあいを見ることで、世之介その人が知らず知らずのうちに浸み込んできます。

 一方、横糸となる二十年後はその周囲の人たちの物語です。彼らにとって世之介とはどんな人物なのか、彼らと世之介をつなぐエピソードから強く感じられます。

「いろんなことに、『YES』って言ってるような人だった」 (P374)


「……もちろん、そのせいでいっぱい失敗するんだけど、それでも『NO』じゃなくて『YES』って言ってるような人……」 (P374)


 祥子のこの言葉が、世之介をあらわす最高の表現だった気がします。

 平凡な人物だけれども、心に残る何かがある。そんな物語でした。おすすめ。
2010年3月18日読了





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Last updated  2010.03.31 20:50:00
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