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テーマ:ミステリはお好き?(1496)
カテゴリ:感想
開国以来、一党独裁体制で長く安全を享受してきた「この国」。常に戦争を避け、ひたすら経済大国への道を歩んできた国ではあるが、安全の維持のためにこの国にもふたつの組織がある。ひとつは国民の日常生活を守る治安警察、もうひとつは他国と相対する可能性を秘めた国防軍・・・
治安警察の番匠少佐の周囲で起こった、「この国」ならではの事件の数々。 ●「ハンギング・ゲーム」 国家反逆罪で菱田の公開死刑を執行することになった番匠少佐。反政府組織は必ず阻止を試みるはずだが、番匠は確実に執行しなければならない・・・息詰まるような攻防。死刑執行を待ちわびる観客にこの国の異常性が強くあらわれています。思ってもみないとはこういうことをいうのでしょうね。 ●「ドロッピング・ゲーム」 第63回日本推理作家協会賞短編部門候補作。エリートコースである海洋学校への進学が叶わなかった翔一。彼が校舎から転落したのは自殺なのか。だとしたら、立ち直りを見せていた彼がなぜ・・・小学校の成績で将来が振り分けられてしまう教育偏重社会の歪み。理性的で強い悪意に反感を覚えるとともに、この国ならではの真相に感心させられました。 ●「ディフェンディング・ゲーム」 4件続いた強盗未遂事件。他国軍の関与を考慮した治安警察は、海軍士官学校に見回りを依頼した。3人組で見回りをする麻岡、池、印南の目の前に不審な男が・・・収録された作品の中では、もっとも現実よりかも。それでも、この国のおかれた状況がしっかり絡められ、なおかつ同じ学校でも「ドロッピング・ゲーム」の持つ後味の悪さが払拭されるような気がしました。 ●「エミグレイティング・ゲーム」 公園で殺されていた男は、サタの昨夜の客だった。その次に殺された男も、その次の男も。簡易宿泊所と呼ばれる国営売春宿に、ついに番匠が現れ・・・「この国」の世界と登場人物たちの背景、そして事件がうまくかみ合わせられた一篇。とくにサタの困惑するような心情が手に取るように伝わってきます。 ●「エクスプレッシング・ゲーム」 「カワイイ博」会場でのテロ計画を察知した番匠。標的である貝塚の警備を固める番匠だったが、復讐を誓う松浦は、周到な計画を立て・・・頭脳ゲームのようだった作品群の最後に添えられた派手なアクションもの。そこに秘められた頭脳プレーに注目。 短編ひとつひとつがおもしろく、論理とサプライズに徹した作品集。読者の常識からすれば、どこかずれた感じがする「この国」に住む人々に光が当てられ、その行動と動機の異常性を明らかにしていきます。 ただし、『この国。』というタイトルの割には「この国」そのものに直接焦点が当てられなかったのは残念。そのあたりももっと浮き彫りにしてほしかったかな。 収録作:「ハンギング・ゲーム」「ドロッピング・ゲーム」「ディフェンディング・ゲーム」「エミグレイティング・ゲーム」「エクスプレッシング・ゲーム」 2010年8月8日読了
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Last updated
2010.09.24 13:53:01
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