恩田 陸 『光の帝国 常野物語』
以前別館でKainoさんからお勧めいただき、また七生子さんの本宅で「夏の1冊」にあげた恩田陸さんの『光の帝国 常野物語』を読了。 様々な超能力をそれぞれ1つずつ持っている常野の一族。穏やかな性格の人々だが、その能力ゆえに悩み、苦しみ、そして時の権力者に狙われたりする。時間と場所を越えた短編集。 もったいない。そして贅沢。 恩田さん自身あとがきで「手持ちのカードを使いまくる総力戦」と書いていますが、まさにそんな感じ。書こうと思えばここで使ったカードでいくつかの長編が書けただろうに。ただ、それだけに中身がぎゅっと詰まった短編集です。一見ばらばらに見える短編集なのですが、登場人物とかが微妙にシンクロしていたりします。 「超能力」という言葉に「エスパー」というイメージで反応してしまったのですが、ぜんぜんそんなことはありませんでした。作品それぞれが懐かしさや怖さ、切なさ、都会的なイメージなど様々なものを与えてくれます。短編に留めたためか余韻が残り、「このあとどうなるの?」と続きを期待したくなります。そういう意味では秀逸な予告編の集合体のようでもあります。以前『三月は深き紅の淵を』を読んだときの印象は払拭です。 今、はっきり後悔しています。あのとき『蒲公英草紙 常野物語』のサイン本を買わなかったことを。収録作:「大きな引き出し」「二つの茶碗」「達磨山への道」「オセロ・ゲーム」「手紙」「光の帝国」「歴史の時間」「草取り」「黒い塔」「国道を降りて・・・」