今年は「暖冬」、季節予報のしくみ
日経ウーマンオンライン(日経ウーマン) 10月10日(水)10時4分配信
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「今年は暖冬」はどうやって分かるの? |
9月25日に気象庁が「冬の天候」の予報を発表しました。この冬の気温は、沖縄から関東甲信越にかけてが平年並みかやや高めということで、暖冬傾向。東北や北海道は平年並みと予想されています。
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今年は暑い日が続いたこともあり、ようやく秋を感じ始めたばかりですが、もう冬の予報ができるのはどのような仕組みなのでしょうか?
冬の天候予報は「寒候期予報」というもので、毎年9月末ごろに発表される季節予報の一種です。季節予報は予報期間が長く、日々の予報(短期予報)とは性質が異なります。日々の天気や気温の予報は「雨がいつ降る」「最高気温は19度」などのズバリ予報。これに対して冬(12~2月)の予報は、「平年値と比べてどうか」という予報です。性質の大きな違いは予測方法です。
まず、天気予報の基本は、空気の流れを基に雨や気温を予測します。現在、日本だけでなく世界中で気温や風、雨量などの気象観測が行われていて、そのうち一定の時間(日本時間だと9時と21時)の観測データから、将来の空気の状態をスーパーコンピューターで計算しています。ただ、これには誤差がつきまといます。世界中でまんべんなく気象観測が行われているわけではないのでデータが不十分だったり、計算上の地域よりも狭い範囲で起こる事象もあるからです。日々の短期的な予報の範囲なら精度が良くても、時間が経つほど誤差が大きくなります。
そこで、季節予報ではいわば「多数決システム」をとっています。生じるであろう誤差を逆手にとって、色々な誤差の可能性から平均的な答えを導き出すのです。ある日の空気の状態を基にあらかじめ51パターンの誤差を生じさせ、それぞれの計算結果を導きます。このそれぞれのパターンを、気象庁では「メンバー」と呼んでいて、同じ答えを出すメンバーが多いか、バラバラかをみるのです。例えば、1月はほとんどのメンバーが「2度くらい高い」といっているのに、2月は「2度高い」から「3度低い」までばらつきがある、といったようになります。その振れ幅の平均をとったものを発表の目安にするのです。振れ幅が狭ければより信頼度の高い長期予報を発表できますが、振れ幅が広くなると予測が難しくなります。様々なシナリオが考えられる中で、平均的な傾向を選ばなければなりません。
季節予報には「確率」がある
さらに、冬の予報には海水温など広範囲の情報を考慮する必要があります。長期的な天候は空気の状態だけでなく、海の様子や積雪なども関わってくるのです。例えば、海水温と天気の関係を示す代表的な言葉「エルニーニョ」。これは、日本からはるか遠い南米ペルー沖の海水温が平年と比べて高いということです。ペルー沖の海水温が高いと、日本に比較的近いフィリピン沖の海水温が低くなって、そこで発生する雨雲が少なくなります。その結果、日本付近の高気圧が弱まる。そうすると、夏は冷夏・冬は暖冬傾向になります。この海と空気の連鎖反応の理解や説明は、気象予報士の中でも苦手とする人が多く、恥ずかしながら私も毎回予習が必要なほどです。
予報の期間も長く、必要なデータの範囲も広い。さらに計算結果の平均をとる必要があるため、発表形式がかなり漠然としているのが、季節予報というわけです。
季節予報の「平年との差」は「3つの階級(低い・並・高い)」で示され、「3階級それぞれがどのくらいの確率で現れるか」がポイントです。合計で100%になる確率を、3階級で分配します。例えば「北日本の冬の気温は、平年より低い確率30%・平年並みの確率40%・平年より高い確率30%」となります。
漠然とした予報ではありますが、この3つの階級を読み取ることで、分かってくることもあります。
例えば、「低い・並・高い」が「10・10・80(%)」となれば「明らかに平年より高くて暖冬」といえます。特出すべきことがないときは、「30・40・30(%)」。どの階級も差が無く、平年の冬と比べて際立ったことがいえない場合です。「10・40・50(%)」でも「平年並みの確率も高いが、寒冬になるよりは大幅に暖冬の確率が高い」といえます。
9月25日に発表された東日本の冬の気温予報は「20・40・40(%)」。平年並みも平年より高い確率も40%ですが、低い確率は20%。このため「どちらかというと寒くはないだろう」といえます。西日本・沖縄奄美も同様の予報のため、マスコミでは「暖冬傾向か?」と発表しました。この3つの階級は一般の方にも公開されていて、9月25日発表の寒候期予報や最新の3カ月予報として見ることができます。
この予報は、最終的に「振り返って平均してみると、全体的に寒くはなかった」という「結果」を予測するものなので、当然、春のように暖かい日もあれば、とても寒くて大雪が降る日もあることを含んでいます。特に暖冬傾向と予測されている場合は、不意の大雪で交通機関がマヒしたり、乾燥と寒さでインフルエンザが流行する恐れもあります。気象庁は強い寒気の襲来や季節外れの暖かさの傾向が見えた時点で、毎週金曜日に発表する1カ月予報や、週2回更新する「異常天候早期警戒情報」で知らせるようにしています。
この時期に発表される冬の予報でおおまかなイメージをして、日々の天気予報で「来週は寒気が来ます」などと知らされたら、早めに用心する...というのが、冬の寒さを上手に乗り切るおススメの方法です。
伊藤みゆき(いとう・みゆき)
証券会社社員を経て、気象予報士に。日本テレビ衛星「NNN24」の初代気象キャスターに合格。現在はNHKラジオ第一「ラジオあさいちばん」気象キャスター。 光文社の雑誌『STORY』などで連載を持つなど、幅広く活動