解体?保存? 菱垣廻船、針路見えず 年度末閉館の「海の時空館」
産経新聞 10月11日(木)14時59分配信
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実験航行で大阪湾内を疾走する「浪華丸」=平成11年7月、堺市沖合(写真:産経新聞) |
今年度末の閉館が決まった大阪市立海洋博物館「なにわの海の時空館」(住之江区)の施設再利用で市が頭を悩ませている。約10億円かけて復元したメーン展示物の菱垣廻船(ひがきかいせん)が巨大で解体しなければ外に出せない一方、残したままでは再利用の方法が制限されるからだ。市は年内に施設再利用を引き受ける民間業者の公募を開始する予定だが、船の解体か保存かでギリギリの検討を重ねている。天下の台所を支えた船の"針路"が定まっていない。
■10億円かけ忠実復元
平成11年7月、復元されたばかりの大阪市の菱垣廻船「浪華丸(なにわまる)」が時空館への搬入を前に、大阪湾へ実験航行に出た。帆を風で膨らませ、船体を揺らしながら白波をたてる。
江戸時代に物流、商業の中心地だった天下の台所・大坂から、物品を積み、江戸に向かった往時の光景を想起させた。
全長約30メートル、幅約7・5メートル、帆柱約27・5メートル。国立国会図書館に保存されていた図面や文献などを参考にしながら実物大に復元された。監修した神戸商船大学名誉教授の松木哲さんによると、週1回、作業に携わる関係者が集まり、半日かけて江戸時代の工法などを確認したという。
松木さんは「クギの打ち方も忠実に再現した」と振り返る。浪華丸は建設中だった時空館の敷地にクレーンで搬入。その後、ガラス約4200枚を使った巨大ドームが浪華丸を覆うようにしてかぶせられ、時空館が完成した。
■施設再利用へ邪魔?
今年6月下旬の市幹部会議。時空館を所管する港湾局の担当者は浪華丸を残すことを前提にした民間業者の公募を提案した。しかし、出席者からは「船の価値を調べて、ゼロなら切り刻んでくずにすればいい」と厳しい言葉が飛んだ。
施設は光熱費などの維持費が年間約8千万円かかり、現在の機械設備を維持するには、27年度から4年間に更新費用として約20億円かかる。
「タダでも借りてもらえるとありがたい」(港湾局関係者)という施設と、浪華丸をセットにすることを疑問視する声が続出。浪華丸の処遇など公募条件を練り直すことになった。
港湾局は「史料を参照して船の価値を調べるなどして公募条件を検討している」というが、条件の内容が固まるめどが立たない中、9月26日の市議会で閉館の条例案が可決された。
浪華丸は船体にひびが入り、以前のように航海することは難しいとされる。だが松木さんは「実物大で忠実に再現された貴重な存在。100年後には重要文化財になっている」と保存を訴える。
一方、橋下徹市長は時空館自体を「計画が狂っていた」と全否定。「ばかみたいに金をかけて、あんな館をつくった経緯を確認する必要がある」と検証作業に乗り出した。
【用語解説】なにわの海の時空館
港湾とともに発展した大阪の歴史を学べる施設として、総工費約176億円をかけて平成12年7月に開館。大阪市では年間60万人の入館者を見込んでいたが、近年は10万人程度にとどまり、赤字経営が続いていた。橋下徹市長が昨年末に見直しを指示し、民間業者が施設を再利用する計画が決まった。市は今年度中に民間業者を決めて契約を結び、展示品の撤去などを経て、26年度の再利用開始を想定している。