住宅は消費増税「前に買うべき」「後に買うべき」は両方誤り?
Business Journal 10月11日(木)11時57分配信
消費税増税が控えている。2014年4月から8%に、15年10月に10%へと増税される。まだしばらく先の話で、実感がない人も多いだろうが、住宅や車など高額商品を扱う業界ではすでに動きは出ている。
「住宅購入なんて、とてもじゃないけど無理......」と考えている人でも、身近に増税を理由に住宅購入の検討を始めたり、実際に買った人が現れたら「自分も買ったほうがよいのだろうか?」と浮き足立ってしまうだろう。そこで、冷静に考えるための材料として、住宅購入と消費税増税に関して押さえるべき5つのポイントを確認しておこう。
【ポイント】
1.消費税がかかるのは建物部分だけで、消費税による違いは数十万円から100万円程度。
2.増税前と後、どちらがお得かはわからないし、考えても意味がない。
3.増税後の反動による値下がりはあるとは思われるが、反動への措置もある。
4.マンションと一軒家で扱いが違う。
5.本当に家を買っても大丈夫なのか?
以下、1つずつ確認したい。
1.消費税がかかるのは建物部分だけで、消費税による違いは数十万円から100万円程度。
消費税がかかるのは建物部分だけで土地にはかからない。3000万円の物件があったとして、建物部分が2000万円ならば、消費税による影響は8%時ならば3%アップで60万円、10%時ならば5%アップで100万円ということになる。決して少ない金額ではないが、数十万円から100万円程度の違いが、何千万円もの買い物を急ぐ理由になるのだろうか? ぜひ冷静に考えてほしいところだ。
2.増税前と後、どちらがお得かはわからないし、考えても意味がない。
「消費税が上がる前に買ったほうが得」という意見に対して「増税後は反動で大きく下がる。だから増税後に買ったほうが得」という意見もある。これはどちらが正しいのか?
残念ながらどちらも間違いだ。97年、消費税が3%から5%に上がった時は、その後、不動産価格の下落は長く続いた。増税後のほうが得、という意見はこれが根拠になっているのだが、残念ながら不動産価格の推移だけを見ていると、こういう勘違いをしてしまう。不動産の専門家やFPでも勘違いしているポイントなので注意が必要だ。
山一證券という証券会社が潰れてしまい、社長が泣きながら「社員は悪くないんです!」と謝っている映像を見たことはないだろうか。これは97年に証券・銀行・生保と金融機関の破綻が相次いだ信用不安の時期を象徴する映像だ。
97年後半以降の不況は国内では信用不安が、世界ではアジア危機が発生し、景気が急速に悪化した。つまり当時の不動産価格の下落は、消費税増税の反動ではなく、景気悪化による影響が大きいということだ。現に97年半ばには一度、不動産市場は上昇に転じている。
逆の視点から考えると、購入の準備が完全に整っている人が、あえて増税後には値下がりするだろうから、と待つのもおかしな話だ。その間に希望の物件が売れてしまえば泣くに泣けないだろう。
結局、増税の前と後のどっちが良いんだ? と言いたくなってしまうだろうが、株や不動産のような市場の取引で決まる資産価格は、そんなに簡単に予想できるものではない、ということだ。これは筆者のブログ「消費税が上がると、不動産価格はどこまで下がるのか?」「高額商品は増税後に買え」でも詳しく説明した。
では何を基準に決めれば良いのか?
それは外部要因ではなく内部要因ということになる。具体的に言えば、自身の収入は安定しているか、雇用は安定しているのか、頭金は貯まっているのか、パートナーの稼ぎはどれくらいか、子供が生まれても会社を辞めずに済むか、といった部分だ。
例えば、結果的に消費税増税前に買ったほうが価格的に得だったとする。それでも増税後に買ったほうが良いというケースはありえる。なぜかというと、損得というのは支払いがちゃんとできた場合の話であって、途中で支払いができなくなってしまえば、損か得かなどという話は関係なくなってしまうからだ。支払いができなくなれば結果的に競売や自己破産に陥り、家計は破綻し、家庭が崩壊することも珍しくない。
支払い総額、つまり損得だけに注目している時点で、途中で支払いができなくなるリスクを無視しているということだ。20~30年先まで今の給料が安定していると自信を持って言える人が、このご時世にどれだけいるだろうか?
このように説明すれば、どんな状況であろうと「無理をして買うのは間違い」だとわかってもらえるだろう。詳しくは筆者のブログ「持ち家は資産か?」「そろそろ決着を付けたい『持ち家と賃貸はどっちが得か?』という下らない論争」で丁寧に説明している。
3.増税後の反動による値下がりはあるとは思われるが、反動への措置もある。
増税後の反動に備えて、住宅ローン減税の拡充も検討されている。住宅ローン減税とは、年末時点の住宅ローン残高の1%が、所得税と住民税の一部から差し引かれる制度だ。3000万円ならば1%の30万円が還付される。従来はローンの上限が5000万円で期間は10年、つまり1%の50万円×10年で最大500万円が減税されるような仕組みになっていた。
これが年々上限額が減り、今年は3000万円、来年は2000万円となる。この制度が増税の反動対策として、期間が15年、最大1000万円まで減税されることになるようだ。おそらく消費税の増税分は、この制度だけでも十分吸収可能だろう(ただし、これは所得税をたくさん納めている人が高額なローンを組んだ場合のみフル活用できる制度で、多くの人が1000万円まで減税されることはない)。
4.マンションと一軒家では扱いが違う。
契約から引き渡しまで時間のかかる一軒家を新築する場合も注意が必要だ。通常は引き渡し時の消費税が適用されるのだが、現状では経過措置といって、13年9月末までに契約をすれば、完成して引き渡す時期に消費税が8%に上がっていても、5%で済むという仕組みだ。同様に、13年10月1日から15年3月末までに契約をすれば、引き渡し時に消費税が10%になっていても消費税は8%で済む、ということになる。
これが経過措置で、一軒家の建築時に適用される(現状ではマンションなどは適用されない)。一軒家を建てようと考えている人は、この措置の期限直前に契約することは避けるべきだろう。申し込みが殺到して、担当者と腰をすえてどういう家をつくるか、その会社と契約しても大丈夫なのか、ゆっくり検討する時間が取れなくなる可能性が高いからだ。
5.本当に家を買っても大丈夫なのか?
家を買うと通常はその場所に20年から30年、場合によっては一生住むと考えるのが普通だろう。家を買う平均年齢は30代半ばなので、日本人の寿命を考えれば半世紀以上同じ場所に住み続けることになる。では、家を買った場所が半世紀先まで住みやすい場所である保証はあるのだろうか?
日本の人口が急激に減ることは、すでに決まっている。これから少子化が改善されたとしても、その子供たちが大人になるまで何十年もかかる。今後の人口の変動(これを人口動態という)は、景気に関する予測の中でも特に精度が高い。特に地方の人口が少ない地域では人口減少が加速的に進み、現在人が住んでいる地域の2割が無人の地域となる。一方都会は問題がないのかというと、地方以上に高齢化が進み、独居老人が現在の3倍になる。
このような状況でどこに家を買うべきか? さらには、家を買っても大丈夫なのか? ということについて、より慎重に考えるべきだ。この話は筆者のブログ「わずか40年で地方都市は消滅し、都会には独居老人があふれる『まだら模様の将来』」でも詳しく書いた。
以上、5つのポイントをコンパクトに説明してみた。詳細はリンクで紹介した記事も併せて読んでいただければと思うが、住宅を買うべきかどうか、今ほど判断が難しい時期はないだろうが、それは消費税とはほとんど関係ない。消費税増税で浮き足立ちそうになったら「争点はココじゃない」と自身に言い聞かせて、周りの空気には乗せられないことをお勧めしたい。
(文=中嶋よしふみ/シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー)