海堂尊『チーム・バチスタの栄光』
いやああ、これは面白かった!今年上半期最高おススメ作品じゃないでしょうか。 成功率100パーセントを誇った心臓外科手術の最高技術集団「チーム・バチスタ」が立て続けに術中死を起こします。その原因を探るべく病院長から指名されたのは、愚痴外来と呼ばれる離れ島のような神経内科の主、田口でした。 果たしてこれは医療ミスなのか、不幸な偶然なのか、それとも殺人事件なのか。あまりに精密な医療の現場の描写に、ドキュメンタリーを読んでいるような気がします。チームメンバーの一人ひとりに聞き取り調査をしても、陳腐な推理ドラマによくある思わせぶりな言動はまったくなし。ほんとにこれは事件なのか、という疑問をもちつつもどんどん先を読ませるのは、田口の人物を捕らえる視点の面白さですね。後の選考委員の解説にもありましたが、ここまでキャラが印象的に描かれる作品に出会ったのは久しぶりです。 途中から華々しく登場するロジカルモンスター、白鳥という男も魅力的です。外見はゴキブリみたいらしいですけど。論理論理で攻めていく手法はまさに将棋の詰めのようです。ああ、論理ってなんて爽快なのでしょう!もっと自分が頭がよかったら、その面白さも倍増することでしょう。ついていけない部分があったのは残念でした。 作者は現役の医師だそうで、これほどの作品を描けるにはよほど暇な部署にいるに違いない。続編がすでに複数出ているということでさっそく予約しました。 それにしても、現場を一番知っている医師が書いてしまったらもう文系の人間の出番はないですね。考えてみれば医者になるような人って、子どもの頃からオールマイティに優秀な人間だったのでしょうね。 強いて文句を言わせてもらえば、劣等感の塊のような描かれ方をした主人公田口が、最後の場面でやはりただ者ではないって知らされることですかね。凡人にとってはイヤミな気がしないでもない。 まあ、そんなことは些細なことです。頭がいい人はその技能を如何なく発揮してもらえればそれでいいのです。