村田喜代子『あなたと共に逝きましょう』
あなたと共に逝きましょう 久しぶりの村田さんの本です。これで書くために取り寄せてもらいました。 60を過ぎた夫が心臓動脈瘤という病にかかります。手術の成功率は95パーセントと聞いても、20人に一人は死ぬという現実を前にして、夫は民間療法で治ったという話にすがりつき、癌も治癒したという温泉療法にも出かけます。 自身も仕事を持つ身である妻は、そんな夫のことを「破裂物」と呼びながら、山奥の温泉にも同行し、共に病と闘います。 単なる夫婦の愛情物語にさせないのが村田さんのさすがと思わせるところです。村田さんの「見えないものを描くリアルな手法」がますます冴えてます。特に疲れてみる夢が艶っぽくて、その相手というのが「たとえ天地が避けてもいっしょになろうと誓った男」なのですね。この男をどう捉えるか、それを考えると深いです。 夫の手術がどうなるのかを主人公とともにハラハラしながら読むのが正しいと思うので、結末を言ってしまうと半減してしまうのですが、大病を患った夫の看病を終えた妻というのはときどき鬱状態になるそうです。 地獄の底で待っている男の存在は、自分が夫と共に逝く決意をしたことを暗示しているのでしょう。ところが、地獄には行かないことになってしまった。そうしたときに妻の人格は行き場を失い、崩れていきます。 最後の最後がちょっと不安定なままのような気もしましたが、かすかに希望は見出せます。この夫はどんな言葉を妻にかけたのかが聞きたかったです。いや、男は言わないんだろうな。だから地獄で別の男が待っているんだよな。