白石一文『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』下
この胸に深々と突き刺さる矢を抜け(下) 一度予約を取り逃し、再び予約して結局延長してやっと読み終わりました。 『ほかならぬ人』を読んでいなければ、おそらく途中で挫折したでしょう。 大手出版社の編集長を務めるカワバタは癌を患ったことがあり、常に再発の不安を抱えています。指名手配の男を自らの手で捕まえますが、その彼女から「あなたの癌が再発することを心から願っています」という手痛い手紙が届きます。 そういうカワバタの弱さも描かれるのですが、大半はカワバタの随筆といいますか、日頃考えている社会問題についての記述がほとんどです。一億の金を稼ぐ者はどうして寄付しないのか、アメリカのほんの一握りのスーパー金持ちから税金を9割取れば世界の貧困は相当減るはずだ、というようなことがいろいろな文献の引用もして述べられます。 カワバタは息子を三ヶ月で亡くしていて、それが原因で妻とはうまくいっていません。お互いに愛人関係をもっています。その息子がときどき話しかけてきたり、自分とそっくりの男を電車で見かけたりします。霊能力など信じないけれど、そうした現象をまったく否定しないのが白石流です。 ストーリーとしては癌が再発して、ある女性のことから裏世界にも通じる男の拷問を受けることになって散々なのですが、カワバタは恵まれてますよ。イチローに寄付しろという前に料亭で飲む金があるならあんたが寄付しなさいといいたくなります。 結局どこをどう読めばいいのかわからない小説でした。引用されている文献はたいへんためになりましたけどね。