中島京子『小さいおうち』
第143回直木賞受賞作!【BOOK】「小さいおうち/中島京子」 前回の直木賞受賞作、やっと回ってきました。 久々の星5つです! まず、とてつもなく読みやすいです。難解な言葉がないというだけでなく、無駄がないのです。会話も山の手のお嬢様のセリフがいいわあ。原節子とかあの辺のモノクロ映画を見ているような気分で、うっとりします。 昭和初期の東京郊外の赤い屋根の家での、奥様と坊ちゃまとご主人との暮らしを書いた女中さんの回想録です。中島さん、ほんとにこの時代に生きていたのですか?と聞きたくなるほど鮮明です。戦争の話は聞きますが、まだ実感のない、ゆるやかな時代です。売れに売れる玩具メーカーのやり手社員であるご主人と、モデルさんのように美しい時子奥様の暮らしは優雅です。 戦争のことはほとんど出てきません。でも、その穏やかな暮らしが強引にもぎ取られていくことを知っているから、泣けてきます。この美しい奥様からこの幸せを奪ってしまうことはなんと罪深いことなのでしょう。 最終章ではタキさんの甥の男が「坊ちゃま」に対面します。こうしたエンディングはどこか興ざめすることが多いのですが、これが全くそうではないのです。「小さいおうち」についてもっと知りたくなります。 直木賞というより、芥川賞をとってもよかったと思える傑作です。